2005 年 02 月 25 日 : セレンディピティ
『セレンディピティ』という言葉をご存知だろうか。Webster's Dictionaryによれば、「セレンディピティ(serendipity)」には「求めてもいないのに偶然に幸運な発見をする能力(the faculty of making fortunate discoveries of things you were not looking for)」という意味があるらしい。何だかベンチャーにも必要な才能みたいだ。
母から薦められた同名のタイトルの映画を観て、『セレンディピティ』という言葉の響きに憧れを抱いていた。偶然に出会った見知らぬ男女が、数年後、それぞれの電話番号が記された書物と紙幣を偶然に手に入れることで物語が展開するというのが、軽妙でロマンティックなこの映画のストーリーだった。
『セレンディピティ』の語源は『セレンディップの3王子(Three Princes of Serendip)』というおとぎ話にあると謂われている。この物語は、セレンディップという国(現在のスリランカ島)の3人の王子の冒険にまつわるお話だ。綿密に計画をたてて出発した王子たちであるのだが、旅は思い通りに運ばなかった。でも、さまざまな困難な出来事や災難に巻き込まれつつ、叡智を振り絞ることで予想外の貴重な体験をし宝物の発見をするというアドベンチャーな話だった。この物語から、幸運を神頼みするのではなく「不思議なことを追求する心的能力」ということを意味するようになったらしい。
実際のところ、ベンチャー企業で起こるさまざまな出来事もこれに近いところがあるように思う。事業計画書の緻密な計画や研究開発がその通りに進まないケースが圧倒的に多いのではないだろうか。その中にあって、計画が当初の予定以上に発展できるかどうかは、予想外の発見や発明をする『セレンディピティ』の才能によって運命付けられるように感じる。
『serendipity』という英単語にしても、何の関心もない人からすれば単にアルファベットが並んでいる単なる文字列に過ぎないが、これに興味を持って何らかの知識や教訓を得ようとする人にとっては学ぶことが多いだろうと思う。日常生活において存在していたり発生するさまざまな事象に、どれくらい深くそんな姿勢でいられるかが『セレンディピティ』という才能をのばす鍵となるのかもしれない。レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』にも通じるものを感じたのだが・・・。自然界や宇宙の不思議に敏感であった科学者や詩人たちにもこの能力が見出せそうである。
ソフィア・クレイドルは「未来社会におけるクールな携帯電話向けの電話帳」を研究開発するところから出発したが、未だそれは達成できていない。いろんな条件、制約や業界環境などに左右され当初の計画からすれば必ずしも思い通りに進んでいない。しかし、いろんな困難な事態や問題をスタッフ全員の知恵を働かすことによって、壁を乗り越える度に自ら成長すると共に予想もしなかった新しい技術開発に成功してきた。そして、それらが製品となり売上があり、幸いにも会社自体が生存しかつ進化を続けている。
苦しく厳しい経験や体験が存在するのなら、そこで得られるものにもそれだけの価値があるのではないだろうか。誰にも備わっていると思われる『セレンディピティ』を養うことができたら、獲得できるものも珍しく美しい宝物となるだろう。だから、そのためにも何よりもまず、『創める』というスタンスが大切になってくるように思える。