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Sophia Cradle IncorporatedPresident Blog : 2005年03月

2005 年 03 月 30 日 : DNA

ハードウェア製品の場合は耐久年数などがあって使っているうちに段々と消耗してしまう。そして、いつしか使用できなくなる。「エントロピー増大の法則」が働いているかのようだ。ソフトウェアは消耗することがない。重要なポイントとなるのが「使えば使うほどに価値を増してゆく」というコンセプトではないかと考えて、ソフトウェア研究開発事業を推進している。

アプリケーションと呼べるような最終利用者の方々が使うものではなく、そのアプリケーションを構成する部分的なモジュール(部品)のようなモノを創っている。とりわけスタッフたちが心掛けているのは、自分たちが創ったソフトウェアを永く利用してほしいという願いである。

開発者がソフィア・クレイドルのモジュールを拡張して自分たち独自のモジュールへと融通無碍に発展できるような設計思想となっている。使い捨てではなくて、何度も再利用し、その都度、時代のトレンドの歩調にあわせて、モジュールを変幻自在に発展させてゆけるのが大きな特長といえるだろう。

依然として、ソフトウェアは人の手によってしか創れないだけに、大変、貴いものなのだ。何千年もの風雪に耐え、今も原形を留める、古代エジプトのピラミッドのように、調和を保ってブロックを積み重ねるようにしてソフトウェアを構成すれば、長く利用されるモノになるのではないかと思い、そんなコンセプトで製品を研究開発している。

感覚的には、次のような式で表現されるよう、ソフィア・クレイドルの製品を取り巻くソフトウェアの価値が時間の経過にしたがって過去のソフトウェア資産をストックして共に高まることを狙っている。

Value = A( α ) × B( β ) × C( γ ) × …… (α, β, γ = 0, 1, 2, 3, …… )

最初はソフィア・クレイドルが開発した A(0) という価値しかないのだけれど、時間の経過と共にAのバリエーションを持たせた A(1), A(2), … というような新たな付加価値が、またソフィア・クレイドルによって創られる。そして、A はソフィア・クレイドル以外の組織によって創られた B, C, D … と組み合わせる相乗効果により、価値は幾何級数的に飛躍する。

すべては根源ともいえる A(0) から始まる。生物をメタファーにするならば DNA の存在に近い。それは未来を決定付けるだけに最も大切である。それだけに時間も手間もかけて、何度も何度も繰り返し試行錯誤するだけの理由があるといえよう。そうすることによって磐石なインフラストラクチャーが築かれてゆく。

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2005 年 03 月 29 日 : 元素周期律表

高校生の頃、化学の授業で、かの有名なメンデレーエフの「元素周期律表」を暗唱していたのが今では違う世界のことのように思い出される。

地球上には百花繚乱のいろんな生物や物体が存在している。古代ギリシャの哲学者アリストテレスの発想から始まったらしいけど、原子レベルまで突き詰めると、人工的に生成されたものも含め僅か117種類の元素しかないということだ。しかもシンプルな規則性のあるテーブルとして表現できる。まさに驚きである。

実は世の中は、意外とシンプルな原理原則で構成されているのではないかと信じたくなりそうだ。実際、そう考えて事業展開を目論んでいる。

携帯電話向けソフトウェアの研究開発をしている。年を追うごとに新たなテクノロジーや斬新な企画が生まれ、ソフトウェアは大規模になり複雑化している。世界の人びとから期待を一心に集める、携帯電話向けソフトウェアの世界で、複雑系の問題に対してどう対処できるかがこれからの最重要課題だ。

メンデレーエフの元素周期律表のような考え方で、携帯電話向けソフトウェアを構成する元素のような基本的な要素とその組み合わせ(フレームワーク)に再構成することで、携帯電話向けソフトウェアの複雑系の問題に取り組んでいる。

元素周期律表の中にも、この規則から人工的に創り出された元素がある。私たちはすべての基本構成要素を自ら創造しなければならない。メンデレーエフの元素周期律表のような美しき規則を発見したい。

携帯電話向けソフトウェアの元素に相当するようなものを見出し、人びとに喜ばれる、多種多様なソリューションの創造に貢献できればと願っている。

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2005 年 03 月 27 日 : 経験分布関数

人や製品、事業など成長しうるあらゆるものにいえる事実だから、数学的にも研究されているのだろうか。経験分布関数(Empirical Cumulative Distribution Function)というものの性質を知るのはベンチャー経営でとても大切だ。 

ベンチャーでは成長こそがすべてといえるほど、ワクワク&ドキドキ感をもたらしてくれる源だ。それではその成長とはどんな風にして姿を現すのだろうか?

それは敢えて数値的に表そうとするならば、連続的な曲線ではなく、今日の日記の画像にあるように階段状の軌跡を描いてゆくように思われる。ベンチャーとは、全くのゼロからスタートし、それが徐々に大きなものへとステップアップしながら段階的に成長していく過程といえる。

最初はベンチャーのビジョンや目的や目標の達成に向けて、そのプロジェクトに関わるスタッフたちの全知全能を結集しいろんな試みをする。しかし、現実は長いゼロの状態が暫く続く。ゼロというのはゼロであり、それは天と地、有と無、生と死ほどにも段階的に異なっている。それから、あることをきっかけにしてゼロからプラスの状態に1段階ステップアップしていることに気付く。その後、また暫くは平行線を彷徨いながら、それでも前向きな努力していると、最初と同じようにしてあることをきっかけにステップアップし次の第2段階へと進むことができる。

ベンチャーでの成長とは、こんなスタイルで何度も何度も繰り返されてゆく過程なのだろう。さまざまな創意工夫や努力をしていても、その結果が直ぐには現れないところが一番難しいところであり、この過程を理解していないがために、途中で諦めてしまう人が多いのではなかろうか。また、自分の持っている知識や理解は意外とモジュール化されているので、自分たちがどの段階にあるかはなかなか分からないし、誤解も生じたりする。そもそも向かう方向が違う場合もある。

階段状にステップアップしつつ成長するためには、まずは、自分の得意な範囲から、広く前向きなビジョンや目的や目標に向かって努力が必要と思う。それをしない限り成長曲線は水平線を描いて停滞するのではないだろうか。創造的な停滞や沈黙というものもあるけれど、プラスの方向に向かって進んでいる限り、目には見えない関数曲線を描いて進歩している。そして、その成果は突然やってくる。

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2005 年 03 月 23 日 : 創造のために

日常生活において、整理整頓しないと時が経つにつれ部屋のモノは無秩序に乱雑に増え続ける。いつしかその部屋は飽和状態となり、新しいモノを全く受け付けなくなるだろう。だから、あるタイミングで私たちはいらなくなったものを捨てる。そうやって新しいモノを部屋の空いたスペースに入れるようなことをしている。

古いモノを捨てることによって新しいモノは自然に生まれるという教訓のようなものかもしれない。多くの人がずっと慣れ親しんできたモノや自分自身の固定的な観念をきっぱりと拭い去れないでいる。その結果、閉じられた世界から永久に脱却できず、いつまでも同じ地点を堂々巡りするかのように人生を過ごしがちだ。

ベンチャーであれば、新規性のあるビジネスの創造こそが突破口である。人びとにとって意外で新鮮な満足感をどうやって創り出せるかがその存続や発展を占うカギといえるだろう。

人間の脳細胞は数え切れないほど無限にあるように思えるが、実際は有限な存在でしかない。新しい何かを生み出すためには思い切ってこれまでの過去を全て捨てる去るのも一つの方法だ。

脳の中にある海馬には不必要なものは自ずと忘れさせてくれる仕組みが備わっているらしい。それによって人間は精神的なバランスをとっている。それをあるテレビ番組で知り、『忘れる』という一種の才能や能力みたいなものが興味深く思えた。

ベンチャー起業するにあたってたくさんのモノを捨てた。その結果、何か新しいモノを受け入れる余地を自分の中に創ることができたように思う。以前はできなかった大胆な発想もできるようになったりもした。

しかし、そんな風に生きていても過去の出来事はどんどん積み重なってゆく。なので、たまには過去を整理整頓し、新しき未来を展望するための段取りをせねばと思う。それによって、別の新しい世界が見えてくるような予感がする。

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2005 年 03 月 20 日 : 顧客の創造

大企業とベンチャー」の日記でも記したように「顧客の創造」ができればベンチャーも安定し、次のフェーズへのステップも見渡せるようになる。しかし、無名のベンチャーにとって「顧客の創造」というのは言葉でいうほど簡単じゃない。

今日は、私たちが『ソフィア・クレイドル』というベンチャーでどうやってその壁を乗り越えてきたか、或いは乗り越えて行こうとしているのか、『SophiaFramework』というソフィア・クレイドル製品を例にあげて戦略的観点からまとめてみようと思う。

先ずは『SophiaFramework』についての説明から。

『SophiaFramework』とはBREW搭載の次世代携帯電話向けソフトウェアライブラリーだ。携帯電話向けユーザーインターフェースを核としているのが大きな特徴になっている。(BREWについて:BREWとは!

簡単にいってしまえば、“パソコンのWindowsのようなGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)的な操作性を持つアプリケーションを携帯電話上で簡単に作れてしまう点”が最大の効能になっている。

携帯電話向けソフトウェア開発の業界を選択し、BREWに関する研究開発という事業に参入すると私たちが決断したのは2002年3月。KDDIがBREWのサービスを開始する一年前のことだった。その時、BREWのマーケットは日本国内には存在しなかった。世界市場を見渡しても辛うじて韓国のKTF、米国のVerizonというキャリアがBREWサービスを細々と開始し始めた程度で全く注目されていなかった。この業界の専門家の大半は、未来のすべてを託すかのようにNTTドコモiモードに集中していた。

BREWとは!の日記にも書いたように、次世代携帯電話が普及すれば、BREWはその世界的なデファクトスタンダードになりうる。それで事業をここに定めた。その時、私たちに幸いしたのは、当時はNTTドコモが世界的にも他のキャリアを圧倒していたので、BREWのコンセプトに着目し事業化しようとする人が少なかったことであろう。

一般に、ソフトウェアのデザインと開発で最も難しいのは、『ユーザーインターフェース』か『ネットワークプログラミング』ではないかと思う。私たちは先ず『ユーザーインターフェース』の部分に着目した。もともとBREWは米国で生まれたものであり、その当時アメリカの携帯電話は、日本よりも2〜3年時代遅れのものであったため、BREWが提供するユーザーインターフェースもそんな携帯電話で間に合うようなものでしかなかった。(こういうことは、世界の携帯電話事情を知らなければ意外に知られていないようだ。)日本国内の携帯電話にはメガピクセルカメラが内蔵されたり、QVGAという細かい文字や絵が描画できる液晶が搭載されいる。BREWがデフォルトで提供するユーザーインターフェースだけではそのハードウェアが持つ機能を十分に活かしきれるものではなかった。

パソコン、テレビ・ビデオ、自動車……どんなものにせよ、ユーザーインターフェースの革新と共にその利用者が圧倒的に増加し、そして利用者から支持され愛されるものになる。そこで私たちはBREWの携帯電話向けにユーザーインターフェースの革新を創造しようとした。

ベンチャーの場合、知名度のある競合他社が同じような製品を提供していると、余程の効能か営業力が無い限りそのベンチャーは生存すら困難な事態に陥る。私たちはそういった熾烈な競争を避けるために、最初は競合他社が存在しないBREWのユーザーインターフェースという、その当時極めてニッチなマーケットに照準を定めたのだった。

『GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)』は利用者にとって使いやすくその必要性は極めて大きい。しかし、その分プログラミングも複雑で大規模となり開発は大変である。

『SophiaFramework』の研究開発の過程において、さまざまな問題に遭遇しては、それを解決して一歩一歩進むというような感じで、一進一退のペースではあったけれど着実に歩を進めていった。携帯電話の特性上、貧弱な限られたハードウェアで“使いやすく豊富かつ高機能なユーザーインターフェース”という相矛盾する課題をどうやって調和をとって解決するか、が最大のポイントであった。

そんな風にして研究開発したユーザーインターフェースだから完成までに多くの時間を要したのだけれど、その時間の差そのものが『SophiaFramework』の競争優位性となったと思う。世界マーケットにおいて、“C++というオブジェクト指向プログラミング言語”によるWindowsのようなマルチウィンドウをBREW携帯電話で可能にしているものは未だに存在していない。

そういったGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)をBREW携帯電話で実現しようとすれば『SophiaFramework』しかない。謂わば『機能性』の希少価値を提供し、それによって顧客を創造するという戦略である。

無名で実績のないベンチャーであったにしても、そこにしか存在していなくて手に入れることができないものならば、その機能の必要性の強さに応じて売れる可能性が高まるだろう。そういったところに『顧客の創造』のヒントが隠されている。

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2005 年 03 月 18 日 : 大企業とベンチャー

ここ5〜6年ほぼ毎日といってよいほど学生さんと接している。ときどき彼らから将来の進路の話なども聴いたりする。

いつか起業したいが失敗したくない。きっと大企業であれば教育体制がしっかりしてそうだ。だから、最初は大企業でちゃんとした経験を積みたい。そんな学生さんも多いのではないだろうか。ドリームゲート・インターンシップでもそんな学生さんが多かった。

この話を聴いて私も昔はそんなところがあったかなと自分の昔の姿を懐かしんだ。学生であった頃、自分の想い描くように何でも事がスムーズに運ぶように主観的に世の中を甘く見ていた。実際は、それとは逆でものごとは自分の思いとは裏腹に推移することが多くいろんな失敗を積み重ねた。

典型的な日本人の考え方からすれば、「一流大学→大企業→ベンチャー起業→人生における成功」というような図式もあるのかもしれない。しかし、実際に生き残って成功しているベンチャー起業家たちの大半は大企業の出身者でなかったりする。なぜ大企業出身という経歴を持つベンチャー起業家が少ないのだろうか?

そもそもベンチャー起業にチャレンジする人が少ないという説にも一理ある。ベンチャー起業に求められる最も大切な要素が大企業では学べないところにその原因がありそうな気がする。逆に大企業で覚えたやり方や習慣が禍したりする。

私自身大企業で勤務していた経験がある。それがベンチャー起業とどう関わってくるのか個人的な見解をまとめてみたい。

どんなものにも必ず裏と表がある。大企業での経験がベンチャー起業にどんなメリット、デメリットを与えるのかゆっくり考えてみるのもたまには良いだろう。

確かに大企業は教育体制がしっかりしているといえる。教育は巨大な組織の一員として働く上で生産性をアップする目的でなされている。大企業は組織が巨大であるだけに、職務内容は細かく分類されている。そのため、その教育内容は細分化された専門性をより伸ばすようにカリキュラムは組まれているものだ。なので、自分の専門性を伸ばすためには大企業はもってこいの組織といえる。

一方ベンチャーの場合、創業期の頃は何から何まで自分がしなければならない。ITベンチャーだからといってプログラミングだけで済ますわけにはいかない。創業の頃は、資金繰り、経理、マーケティング、営業、受注・出荷、契約、人材採用、社会保険、備品の整備などいろんな多岐に渡る内容の仕事を一人でこなせすことが要求される。専門性も大切であるが、一種ゼネラリストとしての能力が要求されるのも事実だ。

勿論、会社が成長すればそれらの仕事も少しずつスタッフたちに権限委譲し、自分の手から離れてゆく。現実はそれ以前に立ち行かなくなるベンチャーが圧倒的に多いのではないだろうか。逆にそこさえ乗り越えると、その後は集中力で必要な知識を学べばなんとかなる。とにかく最初の難関をどうやってのりきるかがベンチャー起業の最大のポイントなのだ。

大企業の教育で学んだ専門知識や業務の進め方、組織などのノウハウも確かに役に立っているけれども、ベンチャーに必要な実務の8割方は未知の分野だった。オーナー社長という立場になって初めてそれを実感する方が寧ろ多かった。水泳にしても頭で学ぶよりも、実際にプールに出かけて練習する方がその習得は早いし、より確実だ。頭だけで考えていても到底泳げるようにはならない。ベンチャー起業も実践の場でしか学べないことが多く、それこそが成功に向けた大きな手がかりとなることが多い。

ベンチャー起業を成功させる上で最も苦労するのは、「顧客の創造」であろう。知名度も実績もゼロの状態でスタートすることの意味は大企業では決して学べない内容であり、ベンチャー起業家にとって最もよく理解しておかなければならないポイントだ。「顧客の創造」という難関を突破しない限り、ベンチャーの未来は絶対に有り得ない。

大企業の場合、その本人に実力がなくともそのブランドだけでモノが売れてしまう。それを自分の才能や能力であると錯覚する人が大企業出身者に意外と多い。

どうやって顧客を創造するかに関しては悩みつつ、いろんな試行錯誤を繰り返した。結局のところ、大企業の教育で学んだことからその解決策を見つけることはできなかった。実際にやってみて、プレッシャーを感じつつ当事者意識をもってやることでブレークスルーできた。

製品やサービスが売れて実績が出てくると、その後はだんだんと売上や利益も伸びてくる。創業時ほどいろんな奇抜な発想をしなくとも売れるようになる。そうなった時にその販売システムの効率化をする段階がやって来る。そんなフェーズで初めて大企業で経験したような知識や技術が活きてくる。いろんな業務をマニュアル化し、システム化する。それらの仕事は大企業では当たり前の話だ。

大切なことはベンチャー起業の最初をどう乗り切るかであり、それを達成できない限り大企業での経験を活かせる場はないのではないだろうか。そのためにもベンチャー起業の肝心要なノウハウをまず知っておくことがベンチャー起業家として成功するための必要条件なんだと思う。

世の中を見渡してみて感じるのは、ゼロから1を創りだす人よりも、どちらかといえば1を10にするような人の方が多そうなことだ。ゼロから1を創りだすのが起業家で、1を10にするのは実務家である。実務家を目指すのであれば、大企業で多くを学べるだろう。

もし自分が起業家タイプを目指したいならば大企業に答えを本当に見出せるかよく考える必要はあるだろう。ベンチャー起業について学びたいのであればできるだけ創業前後のベンチャーで最初から働いた方が多くのことを収穫できるというのが私の個人的な見解だ。ベンチャーの創業が成功して事業が軌道に乗れば、実務家としての知識が少なくて心もとない場合は、外部のコンサルタントや人材を雇ったり、ヘッドハンティングして実務能力を補強すればよい。ベンチャーを立ち上げるよりもずっと簡単なことだ。

起業家であり、実務家でもあるという人は更に少なくなるが、起業家からスタートすればそのような道も目指せるし、また新たな別の事業の起業もあり得るだろう。

どんなオプションを選んだとしてもそれなりの人生が待ち構えているだけだと思う。私個人はずいぶんと廻り道をしてしまった。過去を振り返らないので後悔なんて滅多にないのだけれど、挑戦すべきタイミングを逸していたり、選択を誤まったことも多かった。端的にいってみればそれこそが人生なのであるが、いろいろと紆余曲折があって興味深い話ではある。

2005 年 03 月 17 日 : インビジブルな資産

企業経営において決算書の位置付けはとても重要なものとして扱われる。しかし、それだけで未来の決算書の内容を精緻に予測するのは難しい。何故ならば、「人材力」、「ブランド力」、「ノウハウ」といわれるような極めて重要な資産が財務諸表には顕われてこないからだ。

個人的に企業の実力を測る上で次のような見方が大切なのではないだろうか。

【企業の実力】=【決算書】×【人材】×【ブランド】×【ノウハウ】

ベンチャーの場合、創業間もなければ間もないほど数字で表現される決算書が全体に占める割合は少ないので、ベンチャー起業家には「人材」、「ブランド」、「ノウハウ」に関してその実態を感性を研ぎ澄ませて把握する能力が要請されるだろう。

研究開発型のハイテクベンチャーであれば、創業期は人材の育成や将来に向けた製品・サービスの研究開発、知名度アップなどの仕事に専念せざるを得ないものだ。それらの活動は売上や利益に直ぐに結びつくものではなく、長期的にその企業の発展に大きく貢献する性質のものである。

ベンチャー創業期は「ヒト」、「モノ」、「カネ」といった経営資源が限られるだけに、目にはっきりと見える形としての『売上』や『利益』というものは喉から手が出るほどに希求されるものだ。そのため、そのベンチャーのレゾンデートルに反する内容の仕事であっても、短期的な視点で『売上』や『利益』を伸ばそうとするあまり、本来すべきでない仕事を安易に受注し悪循環に陥るケースもあるのではないかと思う。

好循環な成長スパイラルに乗るには、レースの中でもマラソンのように、企業規模とそのペースの微妙なバランスを適正なレベルで保ちつつ予め段取りして実行する。これは創業間もないベンチャー起業家の重要な役割だと私は考えている。

いますぐ現金化することはできないが、「人材」、「ブランド」、「ノウハウ」は一種の『未来の財産』であり、その企業にとって「金の卵を産む鶏」であり「エンジン」のような存在だ。ベンチャー起業家には、輝かしき未来の姿を鮮明にイメージし、そこに辿り着けるように緻密に計画し着実に実行する姿勢が求められるだろう。

いま数値化できない「人材」、「ブランド」、「ノウハウ」が将来どれくらいの価値をもたらす内容のものであるのかを具体的にはっきりとイメージするようにしなければと思う。それができていれば短期的に惑わされることもなく、自信を持ってしっかりと地に足をつけた経営を実践できる。

負債が多かったり赤字が連続したりすると、やはりどんな経営者であっても、心に余裕がなくなり冷静さを失い、そして「人材」、「ブランド」、「ノウハウ」を適切にイメージできなくなり誤まった意思決定をしてしまうものではないだろうか。中には、大胆に行動し、それによって莫大な成果を得る経営者もいるかもしれないが、そのような天才はそもそも確率的に稀な存在と思う。

ベンチャーだからこそ最初は規模は小さくても、創業期から売上をあげて、しっかりと黒字にする経営が大切なんだと思う。急激に規模を拡大するのではなく、徐々にステップバイステップに伸ばしていくのは一足飛びに急成長するよりもずっと簡単で容易な筈である。

例えば、人材力について考えてみると、最初は創業者1人でスタートしたとしても、ある期間かけて1人前の人材を1人でも育てることができれば、次の段階で2倍となる。更に次の段階においても、その2人がそれぞれ人材を1人でもしっかりと育成できたならば、その次は4倍となってゆく。

こんな風に倍々のペースであれば、「人材」のようにインビジブルな資産も10回繰り返せば最初の1024倍もの数字となり、それが大きな未来の売上や利益となってアウトプットされ、現実化されベンチャーは飛躍してゆく。最初のペースは遅いかもしれないが時間の経過と共に着実にそのペースがアップしていく。それが指数関数的な成長の最大の特徴といえる。そんな成長を支える源といえるものがインビジブルな資産にあるように思えて仕方ない。

インビジブルなんだけれども、「人材」、「ブランド」、「ノウハウ」といったものに自然と立体感が感じられるようなベンチャー経営を目指している。

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