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Sophia Cradle IncorporatedPresident Blog : 2005年03月18日

2005 年 03 月 18 日 : 大企業とベンチャー

ここ5〜6年ほぼ毎日といってよいほど学生さんと接している。ときどき彼らから将来の進路の話なども聴いたりする。

いつか起業したいが失敗したくない。きっと大企業であれば教育体制がしっかりしてそうだ。だから、最初は大企業でちゃんとした経験を積みたい。そんな学生さんも多いのではないだろうか。ドリームゲート・インターンシップでもそんな学生さんが多かった。

この話を聴いて私も昔はそんなところがあったかなと自分の昔の姿を懐かしんだ。学生であった頃、自分の想い描くように何でも事がスムーズに運ぶように主観的に世の中を甘く見ていた。実際は、それとは逆でものごとは自分の思いとは裏腹に推移することが多くいろんな失敗を積み重ねた。

典型的な日本人の考え方からすれば、「一流大学→大企業→ベンチャー起業→人生における成功」というような図式もあるのかもしれない。しかし、実際に生き残って成功しているベンチャー起業家たちの大半は大企業の出身者でなかったりする。なぜ大企業出身という経歴を持つベンチャー起業家が少ないのだろうか?

そもそもベンチャー起業にチャレンジする人が少ないという説にも一理ある。ベンチャー起業に求められる最も大切な要素が大企業では学べないところにその原因がありそうな気がする。逆に大企業で覚えたやり方や習慣が禍したりする。

私自身大企業で勤務していた経験がある。それがベンチャー起業とどう関わってくるのか個人的な見解をまとめてみたい。

どんなものにも必ず裏と表がある。大企業での経験がベンチャー起業にどんなメリット、デメリットを与えるのかゆっくり考えてみるのもたまには良いだろう。

確かに大企業は教育体制がしっかりしているといえる。教育は巨大な組織の一員として働く上で生産性をアップする目的でなされている。大企業は組織が巨大であるだけに、職務内容は細かく分類されている。そのため、その教育内容は細分化された専門性をより伸ばすようにカリキュラムは組まれているものだ。なので、自分の専門性を伸ばすためには大企業はもってこいの組織といえる。

一方ベンチャーの場合、創業期の頃は何から何まで自分がしなければならない。ITベンチャーだからといってプログラミングだけで済ますわけにはいかない。創業の頃は、資金繰り、経理、マーケティング、営業、受注・出荷、契約、人材採用、社会保険、備品の整備などいろんな多岐に渡る内容の仕事を一人でこなせすことが要求される。専門性も大切であるが、一種ゼネラリストとしての能力が要求されるのも事実だ。

勿論、会社が成長すればそれらの仕事も少しずつスタッフたちに権限委譲し、自分の手から離れてゆく。現実はそれ以前に立ち行かなくなるベンチャーが圧倒的に多いのではないだろうか。逆にそこさえ乗り越えると、その後は集中力で必要な知識を学べばなんとかなる。とにかく最初の難関をどうやってのりきるかがベンチャー起業の最大のポイントなのだ。

大企業の教育で学んだ専門知識や業務の進め方、組織などのノウハウも確かに役に立っているけれども、ベンチャーに必要な実務の8割方は未知の分野だった。オーナー社長という立場になって初めてそれを実感する方が寧ろ多かった。水泳にしても頭で学ぶよりも、実際にプールに出かけて練習する方がその習得は早いし、より確実だ。頭だけで考えていても到底泳げるようにはならない。ベンチャー起業も実践の場でしか学べないことが多く、それこそが成功に向けた大きな手がかりとなることが多い。

ベンチャー起業を成功させる上で最も苦労するのは、「顧客の創造」であろう。知名度も実績もゼロの状態でスタートすることの意味は大企業では決して学べない内容であり、ベンチャー起業家にとって最もよく理解しておかなければならないポイントだ。「顧客の創造」という難関を突破しない限り、ベンチャーの未来は絶対に有り得ない。

大企業の場合、その本人に実力がなくともそのブランドだけでモノが売れてしまう。それを自分の才能や能力であると錯覚する人が大企業出身者に意外と多い。

どうやって顧客を創造するかに関しては悩みつつ、いろんな試行錯誤を繰り返した。結局のところ、大企業の教育で学んだことからその解決策を見つけることはできなかった。実際にやってみて、プレッシャーを感じつつ当事者意識をもってやることでブレークスルーできた。

製品やサービスが売れて実績が出てくると、その後はだんだんと売上や利益も伸びてくる。創業時ほどいろんな奇抜な発想をしなくとも売れるようになる。そうなった時にその販売システムの効率化をする段階がやって来る。そんなフェーズで初めて大企業で経験したような知識や技術が活きてくる。いろんな業務をマニュアル化し、システム化する。それらの仕事は大企業では当たり前の話だ。

大切なことはベンチャー起業の最初をどう乗り切るかであり、それを達成できない限り大企業での経験を活かせる場はないのではないだろうか。そのためにもベンチャー起業の肝心要なノウハウをまず知っておくことがベンチャー起業家として成功するための必要条件なんだと思う。

世の中を見渡してみて感じるのは、ゼロから1を創りだす人よりも、どちらかといえば1を10にするような人の方が多そうなことだ。ゼロから1を創りだすのが起業家で、1を10にするのは実務家である。実務家を目指すのであれば、大企業で多くを学べるだろう。

もし自分が起業家タイプを目指したいならば大企業に答えを本当に見出せるかよく考える必要はあるだろう。ベンチャー起業について学びたいのであればできるだけ創業前後のベンチャーで最初から働いた方が多くのことを収穫できるというのが私の個人的な見解だ。ベンチャーの創業が成功して事業が軌道に乗れば、実務家としての知識が少なくて心もとない場合は、外部のコンサルタントや人材を雇ったり、ヘッドハンティングして実務能力を補強すればよい。ベンチャーを立ち上げるよりもずっと簡単なことだ。

起業家であり、実務家でもあるという人は更に少なくなるが、起業家からスタートすればそのような道も目指せるし、また新たな別の事業の起業もあり得るだろう。

どんなオプションを選んだとしてもそれなりの人生が待ち構えているだけだと思う。私個人はずいぶんと廻り道をしてしまった。過去を振り返らないので後悔なんて滅多にないのだけれど、挑戦すべきタイミングを逸していたり、選択を誤まったことも多かった。端的にいってみればそれこそが人生なのであるが、いろいろと紆余曲折があって興味深い話ではある。