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2005 年 03 月 14 日 : ネットワーク外部性

インターネットやITの業界にいると『ネットワーク外部性(Network Externalities)』というキーワードをよく耳にする。『ネットワーク外部性』とは『ネットワークに参加する利用者の数が増えれば増えるほどそのネットワークの価値は高まる』というネットワーク効果のことである。

電話、FAX、インターネットなど世の中の様々なものに関してこのネットワーク効果が働いている。例えば、インターネットに接続することによって既にインターネットに接続しているすべての人とメールなどでコミュニケーションを取ることができる。その価値はインターネットそのもののテクノロジーよりもそれに加わっている利用者の数の方が大きくものを言う。

しかし、『ネットワーク外部性』そのものが機能するためには、ネットワークの利用者の数が『クリティカルマス(Critical Mass)』と呼ばれるある一定の普及率を超えなければならない。その普及率は経験的に潜在全利用者の10〜15%程度といわれている。そのネットワークに参加している利用者の数がクリティカルマスを超えると共に『ネットワーク外部性』は顕著に現れる。

インターネットにしても携帯電話にしても、それらが世の中に初めて導入された初期の頃は利用者数の伸びは緩やかだった。ある時点を境にして急激にその普及が進んだ。その普及のペースが一気に変わる変極点のようなポイントがクリティカルマスだ。

ソフトウェアビジネスを展開する上で、『ネットワーク外部性』と『クリティカルマス』の概念を抑えておくのは極めて重要である。自分が所属する業界の利用者が確実に増え、かつ普及の面でもそれを超えるであろうことが十分に見込めないと、折角のベンチャービジネスも頓挫する可能性が高くなってしまうからだ。

『ネットワークの価値はその利用者数の2乗に比例する』という有名な『メトカーフの法則(Metcalfe's Law)』も『ネットワーク外部性』に由来している。ネットワークの価値が利用者数の2乗に比例するのかどうかは経験則によるらしく定かではないが、利用者数が増えれば増えるほど、それだけ加速してネットワークの価値が高まるのは簡単に理解できるだろう。

ベンチャービジネスの場合、ネットワークの人口がゼロの状態からそのネットワークに参加することもよく聞かれる話である。私たちがBREWのビジネスに参入した時点では、日本国内でのBREW人口はゼロだった。その時、重要なポイントが一つあって『ネットワーク外部性』が表面化するにはそのネットワークに関わる人口の普及率がクリティカルマスである10〜15%を超えなければならない、ということだった。それまではこのジャンルで頑張っていてもなかなか思うように成果は現れない。

また、クリティカルマスを超えなければ、その事業は一時的な現象か流行といったものに終わってしまうので、本当にそれを超える確証があるのかというような考察も十分しておいた方がよいだろう。

例えば、2005年2月末時点でBREWが搭載されたKDDIの携帯電話は870万台となっている。KDDI全体としての携帯電話の普及台数は1900万台であるから、KDDI内ではBREW普及率は45.8%であり、KDDI内でBREWはクリティカルマスを既に超えている。KDDIに関する限り、いまBREWの『ネットワーク外部性』が急激に上昇していると予想される。日本全体では携帯電話の普及台数は8600万台であるから、国内のBREWの普及率は10.1%である。国内では、BREWはクリティカルマスに到達しているかもしれない位置にあるといえる。

NTTドコモは2005年末からBREWを採用する意向表明をしているので、2006年以降、NTTドコモでもBREWを採用する携帯電話の機種が増えれば、国内全体としてもBREWはクリティカルマスを突破し、『ネットワーク外部性』が飛躍する可能性がある。

BREWは国内だけでなく米国、欧州、アジアでも急激にその普及が拡がっている。『ネットワーク外部性』はネットワークに加わる利用者の数が大きな影響を及ぼすだけに、世界レベルでその普及率の推移を見守る姿勢は欠かせない。

追記:

米国マイクソフト社の2005年3月14日時点での時価総額は約2730億ドルと評価されている。その価値の大半はWindowsそのものにあるのではなく、Windowsを利用している利用者の数、即ち『ネットワーク外部性』にあるといわれる。インターネットの時代においてベンチャーにとって大切な考え方は如何にして『ネットワーク外部性』を高めてゆくかという戦略ではないだろうか。