2004 年 12 月 22 日 : 携帯の未来
【携帯電話の将来展望】( Sun Developer NEWS より)
世界最初のコンピューター「ENIAC」が世に登場したのは1946年のことです。あれから、半世紀にわたる時を経て、コンピューターはあらゆる側面から進化・発展を遂げてきました。
『エニアック−世界最初のコンピューター開発秘話−』(スコット・マッカートニー著)によると、「ENIAC」は高さ9フィートのキャビネット40個に、1万8千本近くの真空管から構成され、床面積1800平方フィート、重量30トンという巨大なコンピューターでした。動かすには174キロワットの巨大な電力が必要で、コンピューターが動作していない時でさえ、その電気代は1時間あたり650ドルもしました。また、「ENIAC」はひとつの弾道を計算するのに30秒もかかりました。
しかし、現代のスーパーコンピューターでもってすれば、その弾道計算に必要な時間は3マイクロ秒以下です(マイクロ秒とは100万分の1秒)。今のコンピューターは、「ENIAC」と比較してその処理速度は1000万倍以上です。そして、Javaが搭載された携帯電話でその弾道を計算したとしても30秒はかからないでしょう。今後、携帯電話の処理性能はますます加速度を高めて、予想もしない方向に更に、進化・発展を遂げるでしょう。その未来を予測しつつ、ハードウェアやソフトウェアの技術開発をする仕事はとても興味深いものです。今や、50年前には30トンもの重量を有するコンピューターを越える処理性能が、ポケットに入れて持ち運びできる携帯電話の中にあるのですから。
昔、「マイコン」と呼ばれていた今の「パソコン」の原点である「マイクロプロセッサ4004」(日本のビジコン社製)が、初めて登場したのは1976年のことです。これには0.6MIPSの計算能力があり、これは「ENIAC」と同等の性能であったらしいのです。ところが、当時は、世界最大のコンピューター会社であるIBM社を含め、まさにこの「マイコン」が、今日の「パソコン」として大きく進化・発展するという無限の可能性を予見できた人はほとんどいませんでした。
その意味合いから、今は、30キロバイト、100キロバイトなどのメモリ制約や処理性能の面で、パソコンと比較すれば大きく見劣る携帯電話ですが、実は、何十年か前の大型コンピューターに匹敵するCPU性能がなんと今の携帯電話の中に存在しているのです。その驚くべき事実をよく認識・理解し、留まることない数々の技術革新により今のパソコンのCPU性能に匹敵する処理性能が、将来の携帯電話に搭載されるものと考えて、未来の携帯電話の姿を想像することがとても大切ではないかと思います。
コンピューターの未来を占う上で大きなヒントとなるのが、IT技術の発達により、コンピューターがそもそも開発されたきっかけとなった計算能力を、今や必要としなくなったのだという課題をよく理解することでしょう。現在、コンピューターで大きな課題となっているのは、『使い易さ』、『便利さ』、『快適さ』、『面白さ』など、利用者サイドにとっての、日常に即してのより切実で高度な要求に向けての解決策ではないでしょうか。
20年前は余程のマニアで無い限り、個人で「マイコン」を購入し、その利用を楽しむということはありませんでした。しかし、近年のハードウェア技術の急速な発達を梃子にして開発されたWINDOWSやブラウザのような、主として「ユーザーインターフェース」を中心とした使いやすいソフトウェア技術の登場により、子供や年長者やあらゆる方がパソコンを操れる時代となりました。
しかし、「パソコン」という外見的にも技術的にもとっつきにくいイメージがあることが、かえってある種の障壁となってしまい、一部の方たちには利用がためらわれる傾向にあります。しかし、今後、コンピューターというものは、より『人間の視点』に立つことを前提にしたプログラミングがなされることにより、今の携帯電話のようにその中にコンピューターが内蔵されていることをまったく意識させないものに変化するでしょう。私たちは、あたかもテレビ、書籍、文房具、電話などの日用品のように全ての人が自然にかつ自由にコンピューターを利用するという大きな潮流の中にあるのです。
これを達成するには、ユーザーインターフェース、人工知能、小型化、無線通信など今まで以上に高度なコンピューター技術の更なる技術革新が必要とされるでしょう。例えば、何年後かには、今の最新式パソコンを上回るコンピューター性能や無尽蔵に利用できる高速無線回線、ハード機器間の無線接続などが携帯電話に実現されるようなことをイメージアップすれば、現在と大きく異なる携帯電話の利用シーンが浮かんでくるかもしれません。
(以前サン・マイクロシステムズさんのサイトに寄稿した文章より)