2005 年 01 月 30 日 : 知性の増幅器
昨日、NHK 教育テレビの ETV 特集で、
「これからの科学、これからの社会〜京都賞歴代受賞者からのメッセージ〜」
と題した、過去に京都賞を受賞した偉人たちのインタビュー番組を興味深く観ていた。
そのなかでも惹かれたのは、過去にこの日記でも紹介したことのある、「パソコンの概念」を考案した、アラン・ケイ氏の発言だった。
アラン・ケイ氏は、「パソコンは人間の知性を増幅するためのもの>であり、人間の創造性を高める道具、メディアである」と発言していた。彼によれば、いまのパソコンはそのような方向からずれたポジションにあるらしい。人びとはパソコンを手に入れても、日常会話のようにプログラミングをしてコンピューターを自由自在に扱えていない、と。
それで彼は、日常会話のようにしてコンピューターと話せるプログラミング言語として、「Squeak」を考案した。これなら、小学生のような子供でも簡単にプログラミングができる。だから、コンピューターの中に自分の思いをプログラミングし、表現することで、自己の創造性を飛躍的に伸ばせるというわけだ。実際、テレビで、子供たちは、自然に言葉を話すような感じで、粘土細工のようにプログラミングを楽しんでいた。
こんなことがもっと具体化すれば、パソコンは人に秘められた、無限の創造性を顕在化させるための道具・メディアとしてもっと活用されよう。そして、私たちの未来の生活は、もっと希望を抱ける豊かなものへと発展してゆくであろう。
飛行機や電車が人間の脚力を補い、増幅したように、パソコンというものは人間の知性を増幅するものである、という捉え方は、新たないろんなアイデアをもたらしてくれる。それがナチュラルなものであれば、いつの間にか、自ずと良い方向に実現されてしまうから不思議だ。その考え方は、自然の法則に逆らうものでなく、誰にも受け入れられるものなのだろう。
ayuは曲の作詞を携帯電話でしているらしい。また、携帯電話で本を書いている作家もいると聞く。携帯電話の特性から、いますぐ新鮮に、その時の思いを綴ることによって記録できるところが有利に働くのかもしれない。
その話を聴いたとき、携帯電話もパソコンと同様、「知性の増幅器」として、いつの間にか進化し始めつつあるように思えた。
携帯電話の進歩は目覚しい。通信速度もブロードバンド化が進んでいる。液晶画面も高精細度になり、ハイビジョンテレビのように鮮やかに映し出されるようになってきた。弱点であった入力方式も、音声認識や手書き認識のような技術が急速に発達してきている。
以前の日記で、アップルコンピューターの創業者 スティーブ・ジョブズ氏の言葉、「Creativity is just connecting things.(創造性とは物事を関連付けて考えることに他ならない。)」を紹介した。私たちは、携帯電話によって人びとの創造性を高めることに大きな夢や希望、ビジョンを抱いている。
携帯電話の液晶画面をいくつかのウィンドウにスプリットして、複数の情報を別々のウインドウに同時に表示できるようなソフトウェアテクノロジーをこれまでに研究開発してきた。
この意図は、次のようなところにある。
携帯電話がブロードバンド化することで、通信料金は定額制になり、人びとは世界中から、身近に、多種多様なさまざまな情報を選択的に受信したり、自ら情報発信する時代が訪れることになるだろう。
そのときに、携帯電話上のスプリットされた複数の画面に、ニュースや音楽、スポーツ、学校の授業、映画、会議、経営者の講演などが同時に映し出されて、利用者はその時の気分や意志で観たり、欲しい情報を選択しつつ、また、さまざまな情報を組みあわせることで、自分のフィーリングに合った、新たな充実した生活が育まれるのではないか、ということだ。
通信速度のブロードバンド化、通信料金の低価格化、液晶画面の高精細度化…。見知らぬ土地から発信された、その情報がスプリットされた携帯電話のウインドウに映し出される。その瞬間、あるアイデアがインスパイアされる時代。もうすぐ、そんな暮らしが始まる。
その時、創造性という観点からも、人びとの生活は次の新しい時代へとシフトしてゆく。
“コンピューターが奏でる音楽は、人間の知性やアイデアなのです。”(アラン・ケイ)
追記:
ハイテクベンチャーの起業家であるならば、たまには偉大な科学者の発言に耳を傾けてみるとよい。それをきっかけとして、思いも寄らないことが起こったりするものだ。