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2005 年 03 月 11 日 : コンバージェンス

無(ゼロ)』から創まる、そんなベンチャーが長きに渡り継続的に発展するにはどうすればいいのだろうか。どのようなメカニズムが必要なのだろうか。インテルとマイクロソフトは『ウィンテル』として共に「CPUの処理能力は18ヶ月で倍増する」という『ムーアの法則』に従った事業戦略を展開し、現在も堅調に成長を続けている。大抵の場合、飛躍的な成長の裏には、何らかのしっかりとしたコンセプトやトレンドが確実に存在している。生き物でいえば、骨格に相当するようなものだ。

今は誰の目にも見えないのだが、何年後かの未来社会ではユーザーにとって必要不可欠なものを、鮮明にイメージできるセンスや才能を磨かなければと思う。日常生活のちょっとした兆しや変化からその後の未来の動向を予測し、その実現に向けて全力投球する姿勢がベンチャー経営者には必要だろう。

あまり聞きなれないキーワードかもしれないが、『コンバージェンス』を意味するようなトレンドが未来の高度情報化社会では重要視される。そんな風に考えて、私は『ソフィア・クレイドル』というベンチャーを創業した。辞書で調べてみると、『コンバージェンス』は「converge」という英単語から派生した言葉でそれは「(of a number of things)gradually change so as to become similar or develop something in common」(Oxford Dictionary of English)と定義されていたりする。『元々は異なるたくさんの物事が徐々に一つのものに収斂してゆく』という意味だ。

昔は文字しか入出力できなかったパソコンが、今では文字以外にも音声、画像、映像などいろんなメディアを扱える。だから、パソコンが一台あればすべて事足りるというのも、ある意味では『コンバージェンス』だ。インターネットで、ラジオやTV、映画などをまとめてひと括りにしてコンテンツ配信するのも『コンバージェンス』。音楽が聴けて、カメラ撮影ができて、電話もインターネットもできる携帯電話。それもまさに『コンバージェンス』の一種だ。

このごろ生活の中で興味深く思っている傾向がある。それは音楽CDを買うと、その中にDVDが入っていてその音楽の映像ソフトも入っているという現象である。CDもDVDも両方再生できるプレイヤーを持っている方はプレイヤーは一台で済むが、そうでない人はDVDを観るときはDVDプレイヤー、CDを聴く時はCDプレイヤーにメディアの種類に応じてプレイヤーを変えてそのコンテンツを楽しんでいる。

次のステップとしては、そのCDとDVDも一枚のメディアに統合され、ユーザーは利用シーンに応じて音楽を音または映像、或いは文字・画像(詞や楽譜)で鑑賞する生活スタイルを予測できる。最終的には音楽のオリジナルデータは一箇所のサーバーに記憶され、ネット経由でさまざまな情報機器にリアルタイムにコンテンツ配信され、それぞれの機器の特性に合わせて再生されることになろう。

コンピューターそのものは、世の中の事象をある側面からモデリングしシミュレートする能力で社会の発展に寄与してきた。昔のコンピューターは性能も低かったので、ものごとをある側面からしかシミュレートできなかった。今日ではコンピューターとネットワークの大きな発展に伴って、一つのモデルで全方位あらゆる角度からモデリングの対象となったその事象シミュレートできるようになってきている。例えば、音楽の場合、一つのモデルで音で聴く、或いは映像で観るといったような方式である。やろうと思えば、その曲の詞や楽譜、そして解説やエピソードまでもが音楽を楽しみながら同時に閲覧することすら可能だ。

最近では、『ムーアの法則』に従って高性能なCPUが安価に大量生産され、携帯電話、テレビ、自動車など様々な機器に導入されようとしている。そうなってくると、コンテンツそのものをいろんな情報機器に合わせて開発すると膨大なコストがかかってしまう。それらの情報機器がその性質に応じて、一つのコンテンツをそれぞれ適切に解釈し、ユーザーに最適なユーザーインターフェースでコンテンツ配信することが求められるようになるだろう。

コンテンツのモデルを一つに統一し、それを多種多様な情報機器に配信するのであれば、コンテンツの送り手と受け手の両方に、ある種共通のプラットフォームがあればスムーズにゆく。

ソフィア・クレイドルでは、携帯電話という情報機器でさまざまな情報をハンドリングするユーザーインターフェースを核にした軽量でスピーディなプラットフォームを研究開発してきた。パソコンのWindowsOSそのものを携帯電話で動作させることは不可能であるが、携帯電話上のソフィア・クレイドルのプラットフォーム(SophiaFramework)をパソコンで動作させるのは何の問題もない。実際のところ、パソコン上の携帯電話のシミュレータ上で動作している。

さまざまなコンテンツのモデルが一つに収斂(『コンバージェンス』)し、それを大小、形態もバラエティに富んだ情報機器に配信するとなると、自然にそれを統合するような統一されたプラットフォームがいろんな機種に搭載されることが求められる。機能性は勿論のこととして、そこには軽量であること、スピードが速いこと、さまざまな機種で動作できるように移植性が高いことなどが大切だ。いまはそんな方向性に未来を感じてソフトウェアビジネスを推進している。

追記:

『収斂(convergence)』の反対語として『発散(divergence)』という言葉がある。これらは対を成していて個人的に関心が惹かれるキーワードだ。

コンテンツの情報モデルが一つに収斂(converge)され、そしてその統合されたモデルが多種多様な情報端末に発散(diverge)してコンテンツ配信される。

『収斂(convergence)』と『発散(divergence)』は『+』と『−』のような関係であり、そのバランスが調和を持って保たれている。『収斂(convergence)』が進めば進むほど、それに応じて『発散(divergence)』も広がってゆく。往々にしてビジネスチャンスは誰の目にもはっきりと認識できるトレンドの逆潮に見出せるのかもしれない。

ものづくりの世界において、そのような感性でものごとを捉えるといろんな発想へと繋がってゆくのだろう。