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2005 年 05 月 02 日 : Core concept -10-

マラソンは一人で42.195キロを駆ける陸上競技だ。大きな組織に属していれば、訓練や施設などの練習面で恵まれるかもしれない。けれども、レースの行方を決める要因はその選手の個人的な能力や才能、情熱にかかっている。複数の有力選手がチームにいるからといって、駅伝のようにリレーするわけにもいかない。

ベンチャーはゼロからスタートするものである。最初は小さな存在に過ぎないのに、自分よりも理論上強い競争相手と勝算のある戦いをせねばならない。既存の競争相手には歴史があり、それ故に人材や資金、設備の面で有利なポジションにある。創めたばかりのベンチャーがそんな相手に真っ向から挑めばたちまち辛酸を舐める結末に終わるだろう。

だから最初はできるだけ競争の無い場を選択して行動するのがベストである。たとえ戦わねばならない状況に追い込まれたとしても、自分の強みを活かして1対1の戦いに持ち込める事業領域を予め選ぶということが何よりも肝要だ。自分以外に誰一人いない砂漠のようなところでビジネスを創めるのには勇気がいるかもしれない。しかしそれこそがベンチャーの定義といってもよい。

例え話で言うならばこんな感じである。最初、競合が全く無ければ、42.195キロのマラソンもただ一人で独走しているような状態に近い。それがレースの終盤の決め手である35キロまで続き、その時になってようやく競合がそれに気が付いてスタートした時には時既に遅しということである。オリンピックのゴールドメダリストにしても35キロ先をゆく素人ランナーを退けるのは至難の業であろう。最悪、マッチレースになったとしても10対1よりも1対1の戦いに持ち込むことができれば勝算というものも充分に見込める。

ベンチャーが離陸できるか否かはこの戦略がうまく功を奏するかに掛かっている。大企業であれば優秀な人材が無尽蔵にいるが、ベンチャーではそれは望めない。しかし自分を含めて最低一人は闘える人材がいるのだから、戦略と戦術次第である。数は少ないかもしれないが情熱のある人材が得られるかもしれない。

仕事の結果において最も大きくモノをいうのは最終的には情熱である。ベンチャーでは、その仕事が好きだからやっているというのが大半のケースであり、それに賭ける思いや情熱だけは他の誰にも負けないくらい持っている。それこそが1対1の勝負を決する分かれ目となるのだ。

誰しも倒産の憂き目にだけは会いたくないものだ。そのためにどうすればよいのか、私はそのことを第一に考えてソフィア・クレイドルというベンチャーを創めた。

携帯電話のソフトウェアは物理的、コスト的な制約のため、プログラムのサイズをできるだけ小さく抑えて作らねばならない。現段階においては量よりも質が重視される。一人でもいいから、小さくてクオリティの高い究極のソフトウェアを創れるプログラマーが欲しいという世界である。しかし、日本のソフトウェア業界では、プログラミングの仕事の対価がプログラムのサイズに応じて支払われるという悪しき慣行が長く蔓延っていた。

全く同じ機能をするプログラムをAという人は1000行で、Bという人は100行でそれぞれプログラミングしたとする。携帯電話のプログラムであれば、真に評価すべきはBの仕事である。実は、それはAの仕事よりも何十倍、何百倍も価値のある内容なのだ。ソフトウェアの開発生産性で個人差が桁違いなほど顕著に現れる原因は大抵これに所以する。しかしながら、このことは一般には未だよく理解されていない。だから私たちのようなベンチャーでも入れる隙間を至るところに見出せる。

至近な例を挙げるならば、現在皆さんが使っているWindowsパソコンにしても、1970年代末にはXero Altoというコンピューターにその原型が実現されていた。しかし実際に一般の人々に利用されるまでには10年以上もの時を要した。マイクロソフトが実用化するのにそんなに時間を要したのは、それだけ大きなプログラムを記述せねばならなかったということだ。Xero Altoでは、コンピューターの命令自体がシンプルに設計されていたので、Windowsのようなシステムを開発するのに、長い長いプログラムを書く必要は無かったのである。

競合と1対1で戦うことになった場合は、どうすれば1人で競争相手の10人分、100人分のパフォーマンスを発揮できるだろうかというところに思考を凝らした。そのヒントはXero Altoにあったと言えるかもしれない。

(つづく)