2006 年 04 月 12 日 : 不易流行
「不易流行」という言葉がある。
かの有名な松尾芭蕉の俳諧理論を集約した概念で、芭蕉が創った言葉といわれている。
『去来抄』では、不易と流行に分けてこんな風に解説されている。
「去来曰く、蕉門に千歳不易の句、一時流行の句と云ふ有り。是を二つに分けて教へ給へる。その元は一つ也。不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず。不易は古へによろしく後に叶ふ句なる故、千歳不易といふ。流行は一時一時の変にして、昨日の風、今日よろしからず。今日の風、明日に用ひがたき故、一時流行とはいふ。はやることをする也。」
簡単に言えば、不易とは不変、流行とは変化を意味し、それらの根本は同じということらしい。
ご存知の通り、俳句は季語を含む五七五の三句十七音からなる定型詩である。
ともすれば、マンネリしがちな俳諧の世界にあって、どうやって道を切り拓いてゆくべきかという芭蕉の悟りが「不易流行」に込められているのかもしれない。
俳句ほどではないにせよ、携帯電話向けソフトウェアの世界にも、「不易流行」に通じる何かがあると考えている。
携帯電話では PC やサーバーといったような無尽蔵なハードウェア資源を期待できない。
けれども、十七音からなるたったひとつの俳句によって新たな境地が切り拓かれて人々の心に刻まれるように、携帯電話向けソフトウェアでもそれが充分に可能だと考えている。
未来永劫に変わらぬ原理原則のようなモノなくして何も始まらないし、そこから出発して一風変わったモノなくして普遍的な知の体系がひろがることもない。
不易から出発した流行の中から新たな不易なものを発見する。
そして不易なモノを系統立てて、コンパクトな携帯電話向けソフトウェアとして、ステップバイステップに積み上げてゆく。
僕たちの仕事は概ねそんな風に芭蕉の「不易流行」というスタイルを目指しているのかもしれない。
結論として言えるのは、僕たちの創っているものは日々変化に富むものかもしれないが、その基本は携帯電話に限らずあらゆるコンピューターに応用できるというコンセプトである。