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2005 年 02 月 15 日 : スタートライン

会社を設立した 3 年前が懐かしい。H 君と Y 君は未経験でいきなり製品の研究開発リーダーとして仕事を始めた。当時まだ 20 歳だった。普通であれば、大学でのんびり遊んだり勉強したりして過ごすだろう。

彼らはその中で仕事をするというシーンも自分の生活に取り入れた。3 年の時を刻んだ。3 年で彼らは技術的にも人間的にも想像以上に大きく成長したように実感する。若ければ若いほど、その成長のスピードというものは速いんだと改めて感じたりする。

大学院への進学率が高まっているから、今ではもっと顕著だと思う。私の頃は、理科系の学生は大学院を卒業してから会社に就職するのが専らのコースだった。浪人や留年をせずにストレートであったとしても 24 歳になってしまっている。ダブル人もかなりいる。だから、平均して 25 歳になってから、社会人となって働き出す。ところが、大企業に就職して先ず発生する問題がある。それは大学院時代の専門と実際の仕事の内容が異なることである。それで、就職して一から勉強しなおすパターンが多い。それだけで、更に 1 〜 2 年も余計に時間が経過することになる。

勉強が順調でも大企業であるほど、先輩に相当する社員がたくさんいる。たとえ実力があったとしても、入社して早々先輩を追い越して仕事をするようなことは滅多にない。IT が発達した昨今では、仕事というものは年齢に関係なく、できる人にはできる時代になった。でも企業の体質が古ければ、若い時期から先輩を飛び越えて活躍の場を与えられるケースは少ない。

先輩を追い越すほどの才能が最初から無ければ何も問題はない。だが、その人に類稀な才能がある場合は不幸なことになりうる。相応しい仕事が与えられなければ、彼は、企業に入った最初の数年間は無意味な時間に思えたりする。その間に多くの真に有能な若手人材が優秀であるほどスポイルされていく運命もよくある話。

ハイテク系の仕事というものは、若い頃にもっともハイパフォーマンスで活躍できるような類のものだ。プロフェッショナルなアスリートやミュージシャンの世界と似ている。しかし、日本の大企業の場合、20 代頃というのは、入社してから専門の勉強をしなおしていたり、先輩の補助的な仕事をやらされるケースが余りにも多い。業務マニュアルに則って仕事をすれば、全体としては回るような仕組みなっている。だが、クリエイティブな人にとってはマイナスの部分が余りにも多い。ことその仕事に関しては平均値よりも遥かに上回るような実力を持っている人にとっては、大企業というのは不幸な結末になる場合が多い。

ベンチャーの場合、そのあたりのことを柔軟にできる点がメリットだ。伸び盛りの 20 歳のころから実践的な仕事ができる。23 歳にして京都府から技術的な貢献が顕著であったということで表彰もされるくらい活躍できる。スマッシュヒットを放つような仕事でなければ、本人もベンチャーも登龍門に立てない。ある意味では真剣勝負だ。しかし、名よりも実を追うベンチャーだからこそ、無意味なことを省いて経営できる。そうすることで、逆説的ではあるが余裕やゆとりを持ちながら、たまには一息つくこともできる。意外にも、それが次のブレークスルーへと繋がってゆく。

これから大企業に入って、勉強しなおし下積み生活をする人たちよりも何年も前から、実社会で役に立てるような仕事で成果をあげれる。それこそがベンチャーの醐醍味でもある。H 君や Y 君などの若きスタッフたちは、これから次の 3 年で技術的にも人間的にも更に成長するだろう。だから、世界的に通用するような技術開発もきっと可能である。いまは次の世界の桧舞台への進出に備えているところだ。これまでは日本国内での活動が中心だった。いよいよ世界へデビューする準備が整いつつある。世界レベルの戦いは熾烈なだけに若さが大きな武器になり得る。

いまの理科系の学生は、どれくらい世界的な視野を持って、生涯に渡る研究職としてのキャリアパスを明確にイメージしているだろうか。何を目的にして大学院に進学し、企業に就職するのだろうか。自分の長期的な人生における夢と希望を考えて、20 代、30 代、40 代、・・・とどのように過ごす結果になるのかを鮮明にイメージしている人は残念ながらとても少ない。そんな背景もあってか、最近の傾向として日本から偉大な技術者が生まれにくいような環境になりつつある。

他の業界でもそうかもしれない。少なくともハイテクに関わるような人の場合、特に 20 代をどのように過ごすかで自分の人生が決定付けられる場合がほとんどだ。拙い経験から言えば、20 歳の頃から実際に働いて、実感できるような具体的な成果を着実に積み重ね、それを本職にするということは大切だ。それは世界レベルで超一流の仕事を成し遂げる上で絶対的に有利であるし、必須条件である。

全ては絶好のスタートラインに立てるか否かにかかっている。