2005 年 06 月 17 日 : プロフィットゾーン
株主資本比率を出来る限り100%に近づけたまま企業が総資産を増やしつつ成長し安定化する方法は一つしかない。それはどうやって利益率を高く維持した上で、売上高伸び率を上げるかである。
成長産業であれば業界自体が伸びているので、売上高伸び率も昇りのエスカレーターに乗るかのように高い数字が維持できるだろう。また、利益率を高めるためには極力仕入れが発生しないビジネスが望ましい。
コンピューターメーカーやシンクタンクで実務を経験し、大学院博士課程に進学してコンピューターや数学について学んできた過去を振り返れば、事業を創めるならばそれはソフトウェアに関するものであることは自明であった。
その時、日本においてインターネットに接続可能な携帯電話が世界に先駆けて普及したのはソフィア・クレイドルの創業にとって追い風だった。
携帯電話向けソフトウェア開発事業であれば、今後十年間は世界マーケットにおいて伸び続けて自分の才能や経験も活きる。しかも自社で製品を開発すれば仕入れも発生しないので、高収益な企業を創ることができる。iモードサービスが始まった1999年。ビジネスチャンスの切っ掛けを掴んだ。
企業というものは、利益が出なければ存在価値は全く無い、とまで極論される。それだけにどうやって利益を出すか?しかも利益率を極限のレベルにまで上げるにはどうすれば良いか?考察の限りを尽くした。
辿り着いた結論は、世界広しといえども自分たちにしか創りえないものを開発すること、それをお客さまに支持してもらうことだった。ゼロから自分たちの商品を創るのではなく、ヒントは自分たちも痛感するお客さまに潜在化された問題点を見出す、或いは発掘するところにあった。そして、少なくとも一つは売れる製品を創ることが肝心なポイントのように思った。そのような戦略で事業を進めれば、次が売れなくとも、最初に売れた分だけで研究開発投資を回収できるスキームも組める。僅かではあるが利益も生じる。
マーケティング理論によれば、製品にも生き物のようにライフサイクルがある。「導入期」、「成長期」、「成熟期」、「衰退期」の4つのフェーズに分けて考えることができるという。ぞれぞれのフェーズの売上や利益の構成比は10%、40%、40%、10%といった数字になるのではないかとアバウトに思っている。
ソフィア・クレイドルのビジネスでは、製品開発したものを国内マーケットにおける最初の「導入期」フェーズで研究開発投資を回収し、収支をプラスになるような経営に努めている。そうすれば、仕入れの発生しないソフトビジネス故に「成長期」以降のフェーズでは全て粗利益率100%を自然に達成することができる。国内とは時差遅れでやってくる、海外マーケットに関していえば、「導入期」から全て粗利益100%のビジネスということになる。そうすれば必然的に高収益な企業体も実現できると考えた。
仮に国内マーケットで製品が他のお客さまから支持されず成長期に進めなかったにしても、あるお客さまのニーズに基づいて開発し販売したのであれば、少なくとも一つは販売できる。その収支がマイナスにならないような経営も思いが強ければそれは実現する。
長きライフサイクルを維持しつつ、成長しながら売れ続ける製品やサービスもある。そのための条件は一体何か?この疑問には考える価値が有り余るほどあるだろう。私が学んだことは製品やサービスというものに対して、お客さまの視点が時間の経過と共に変化するという事実だった。それとシンクロしながら変化する製品やサービスは長きライフサイクルの軌跡を描くように思った。
製品やサービスは、最初は「機能」、その次に「品質」、それから「使い勝手」という視点で、時間の経過と共に売れる理由が変化するということだった。例えば、Windowsであれば最初は「GUI」という理由だけで売れた。次第に、バグに関係する「品質」が問題となり、それはWindows2000という製品によって大幅に緩和された。そしていまWindowsXPとなり「使い勝手」を重視した製品デザインとなってきている。マイクロソフトはこのようにしてWindowsという製品のライフサイクルを出来るだけ長く維持しようとしている。
勿論、利益率や売上高伸張率を高めるには、この他にも複雑な要因が絡んでくると思う。しかし、そういった課題に真剣に取り組むアプローチからは様々な示唆が得られる。それはある意味ではベンチャー経営の一つの醍醐味といえるだろう。