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2005 年 04 月 12 日 : 千里眼

最近、海外とコミュニケートする機会が頻繁にあり、和英辞典が欠かせない。たまたま和英辞典を開いて「先見力」について調べてみた。すると、そこには"vision"や"foresight"といった英単語が並んでいた。"The governor is a man of vision."(その知事は先見の明のある人だ。)という例文があったりする。 

ベンチャーを経営していると、以前と比較して"vision"というキーワードを聴く機会が殊更多い。時代の先にあるものを洞察する「先見力」はベンチャー起業家にとって貴重な資質であるという暗黙の了解があるかの如く。

いろんな要素が複雑に絡み合うので、一概にこれと断言することはできない。しかし、「先見力」はベンチャーを成功へと誘う一つの大切な要因であることは確かだろう。

和英辞典のその先にある情報を眺めていると、「先見の明がある」は英語で"have a long head"というらしい。日本語に直訳すれば「長い頭を持っている」ということか。「ものごとを長期的に判断できる」と解釈すれば良いのだろうか。こんなところに英語に対する知的好奇心が刺激される。

"have a long head"という英熟語には「頭が良い」という味も含まれているらしい。英語圏では「先見の明」こそが賢者の証かもしれない。文化的な背景の違いを想像するのはとても興味深い。

日本では、一般に「頭が良い」というのは「学業の成績が優れている」というような意味で捉えられることが多いように思う。だから有名な学校を卒業すると、その人は「頭が良い」と同義であるのがこの日本の一般的な風景の一コマに見える。

学生時代を振り返れば、残念ながら「先見力」と呼ばれる才能を伸ばす訓練を受ける機会にほとんど巡り会えなかった。過去の知識を詰め込み式に丸暗記し、予め答えが一つ決まっているものと同じ解答をするだけでよい。その正解率によって学生は評価される。そんな教育を受けてきた。「先見力」については自分なりに努めてそういった才能を磨くしかなかった。

確かに過去の事実を知ることは大切なことだ。しかし、時代の流れや勢いのようなものから、不確定要素が多く何通りにも答えがあり得る、未知の世界を推論する。そういった能力の方が社会に出てからは実用的で実際には役立つものだ。過去を振り返るだけでなく、そこから無限の可能性を秘めた未来を見渡せる才能がいま求められている。

ベンチャーを経営して尚更それを実感する。実際問題として、「頭が良い」といわれる人たちを100人集めたとしても、その中で「先見の明」のある人は1人いるかいなかくらいだろう。日本の教育のシステム上、そういった努力をしてこなかったから仕方がないといえばそれまでなのだが…。実はそんなところにニッチを見出してベンチャーを創める意義がある。

過去と未来の世界は、いま現在というポイントを経て確かに一つの道として繋がっている。その事実を時空のひろがりの中で連続的に俯瞰できる才能が先見力だ。それさえあれば不安に思うことなく明るい未来を展望することができる。さもなければサイコロを振るようにして不確定に生きるしかない。だから所謂「頭が良い」といわれる人の大半が確率論に従った人生を送らざるを得ない現実がなんとも皮肉に虚しく響く。

創業当初、人材や資金、設備などで恵まれなくとも、他の人には見えない未来への構想力と決断力こそがベンチャーにとって掛け替えの無い財産となる。経営学的にはそれが競争優位の源泉となる。弛まなく無限の成長を遂げるベンチャーの成功の秘訣は千里眼のような「先見の明」にありそうだ。