2004 年 12 月 14 日 : ビジネスの軌道 −前編−
人はさまざまな経験を、記憶の中に残して積み重ねつつ、いつしか成長を遂げる。ふりかえってみて、成長の分岐点を見出すこともあるし、分からないこともあるだろう。
新規性のある製品は、どのように成長するのだろうか。
新規性のある製品とは過去に存在しえなかった製品である。
それを使用するということは、世界で初めて開発された飛行機に搭乗するようなものであるかもしれない。墜落する危険性を考えれば、誰しも乗りたくない。
大空を飛びたいという夢を共有する人。発明に対して新しい発想のある人。しかも搭乗して実験と検証をする勇気のある人がいなければ、飛行機は無く、現在の航空業界も存在しなかった。
無名のベンチャーが新規性のあるビジネスを展開しようとするのならば、最初に、どのようなお客様がいて、どんな夢を持ち、どのような状況で、製品やサービスを購入するのかを熟慮したほうがいい。
ソフィア・クレイドルは携帯アプリの圧縮技術とユーザーインターフェイス技術でスタートした。
現在も世界市場で同業他社を見出すことは難しい。製品が完成したばかりの頃は、知名度や実績、特に営業の点で見劣りする部分がかなりあった。今年の夏あたりからは急に風向きが変わったように、製品が自然に売れるようになった。
その経緯について製品の成長の観点からまとめる。
ソフィア・クレイドルが開発し、販売しているものは、携帯アプリの開発の生産性や品質を飛躍的に高めるツールである。
圧縮ツールにしてもユーザーインターフェイスにしても、いろんな種類の携帯アプリでの採用実績があって初めて製品として誇るに足るものになるのではないか。何の実績も無いものを使うというのを、先の飛行機の例で述べると、世界で初めて研究開発した飛行機らしきものに乗ってみることなのである。どうしても飛行機に乗らなければならない、という状況にあっても、いくら安全であると説明されても、それは、やはり危険な賭けであり、大変な勇気を必要とする行為だったのにちがいない。
創業時は無名であるソフィア・クレイドルの製品をなぜお客様が使う必要があるのか?
何の実績も無いのである。
携帯アプリの世界では、プログラムサイズの制約や使いやすいユーザーインターフェイスを持つアプリを開発することが想像以上に厳しいことに着目していた。
当時、世界市場ではどの会社もそんなことはしていなかった。実現できるかどうか、それから、開発したものが売れるかどうかということは客観的には分からない。
私たち自身、携帯電話向けのソフトウェアの開発者として、そのようなソフトウェアテクノロジーを渇望していた。抑えがたいニーズとウォンツはあるに違いないと信じた。
2004 年 12 月 07 日 : 風を感じる日
ヨーロッパの IT 企業の幹部の方が来社された。ソフィア・クレイドルのソフトウェアテクノロジーに関心があったらしい。興味深い話もあった。
今、ヨーロッパでは携帯 Java や BREW のモバイルアプリケーションのマーケットが急拡大しているらしい。日本より勢いがあるかもしれない。
ハードウェアの急激な進歩に伴い、携帯電話でも、3D を駆使した高度なゲームなどが当たり前のようになってきた。
ゲーム専用機が辿っていった道筋に沿って進んでいるのだろうか。携帯電話のゲームもプレイステーションのようなものに進化していきそうだ。
ソフィア・クレイドルの研究開発しているソフトウェアテクノロジーに対するニーズも、以前よりも強くなってきている。ハードウェアとソフトウェアは車の両輪である。素晴らしい携帯アプリを制作するにはバランス感覚が大きくものをいう。
近年の目まぐるしいばかりの携帯電話のハードウェアの進歩は、追い風であり、チャンスでもある。
米国、中国、韓国など世界中の国々から、評価版提供申し込みなどの問合せ件数が、時間の経過と共に増えている。商品の操作画面、マニュアルなどが英文化されていない。海外のお客様を待たせしている状態である。
携帯 Java 専用アプリ圧縮ツール SophiaCompress(Java) に対するニーズは確かに感じとれる。世界マーケットを見渡しても、SophiaCompress(Java) には類似製品はほとんど無く、圧縮性能は世界でも最高水準である。(競合がないからという話もある)
そろそろ世界デビューのタイミングなのかもしれない。
NTT ドコモの i モードの海外市場は、国内の 10 分の 1 しかない。しかし、携帯電話向け Java や BREW のマーケットに関しては、海外は国内の 10 倍以上と桁違いに大きい。
こういう事情もあって、まずは SophiaCompress(Java) から海外マーケットへの取り組みに着手しようと考えた。
SophiaCompress(Java) に関する研究開発一筋の、いまやソフィア・クレイドルを代表するプログラマー( 23 才)に海外対応を依頼した。若くても世界の仕事ができる。ベンチャーで働く特筆すべきメリットである。
大企業の場合、特別選抜されたごく少数の幹部候補でも無い限り、20 代の頃は下積み時代となる。若い頃はなかなかビッグチャンスというものは巡って来ないものだ。
20 代前半で世界に挑戦できるということは、その後の人生に大きな影響を及ぼすだろう。ベストオブベストの結果を見出せるように、全力を尽くすつもり。ちょっとした成功体験の積み重ねが、掛け替えのない自信へと繋がってゆくのだから。
来年は動きのある一年になりそうな予感がする。
2004 年 11 月 29 日 : コンセプトという名の ・・・
パレートの法則( 80 : 20 の法則 )に従い、枝葉末節に拘らず、最も大切な本質をおさえて行動すれば大抵うまくいく。
ソフィア・クレイドルは、今後、世界で利用される次世代携帯電話に組み込まれるソフトウェアを商品化し販売している。どのような思考過程を経て、今のビジネスをすることになったのか?そのあたりの発想の原点をまとめてみる。
IT 業界の方なら、オラクルというデータベース製造販売会社をご存知だろう。ソフトウェア業界ではマイクロソフトに次いで世界第 2 位の企業である。
創業当初、オラクルが開発したデータベースは不具合(バグ)の塊といってもよく、その品質は極めて低いものであった。そもそもまともに動作することはまず無かったという。そこで、オラクルの創業者であるラリー・エリソンは、リレーショナルデータベースというコンセプトを売ることから始めた。
ソフィア・クレイドルは、オラクルの発想に似た形態でビジネスを進めているようだ。つい最近、「カリスマ」というラリー・エリソンの伝記を読んでいて、そう思った。少々古い本ではあるが、読んで面白くためにもなる本である。それは、あくまでも発想の問題であり、商品の完成度は弊社とはまったく異なるのだけれども。
オラクルが今日のように巨大企業になったのには、3 つの要因がある。
- IBM が開発したデータベースの言語である業界標準の SQL を採用した
- 様々なコンピュータで動作できる移行性に優れていた
- コンセプトを売るのに長けていた
(ラリー・エリソンは、はちゃめちゃなところのある人で、商品であるデータベースがいろんなコンピューター機種で動作するので、「浮気性なんです」なんて言って商品をプレゼンしていたらしい。これは一例に過ぎないので、もっと面白いところは本を読んでほしい。こんなにも笑えるビジネス書は滅多にない!)
私が携帯電話のソフトウェアビジネスを始める時まで、携帯電話のソフトウェアは、まったく統一されておらず、機種ごとにハードウェアとオペレーティングシステムが異なり、それぞれ別々に開発する必要があった。アプリケーションを開発するためのプログラミング言語も、オープンに統一されていた訳ではなかった。また、組み込み系ソフトウェアの仕事といえば、泥臭い仕事というのが定評であり、そこにコンセプトというものが入り込む隙間は無かった。
オラクルがデータベースでやった戦略は、携帯電話のソフトウェアの世界でも有効だ。
すなわち、様々な携帯電話で共通のアプリケーションプラットフォームを提供すること。
それは―― C++ のような、標準的なプログラミング言語でアプリケーションを開発できるような環境。
そして――オブジェクト指向という、ソフトウェアモジュールを部品化して再利用する開発スタイル。
組込みソフト業界によろこんで受け入れられるコンセプトだろう、と考えた。