2004 年 12 月 06 日 : IBMで学んだこと
1987 年から 1993 年までの 6 年間、IBM に所属していた。その時に、経営についてヒントとなる貴重な事柄をいくつか学んだ。
いまでも尊敬すべき企業であることに変わりはない。当時、コンピューターといえば「 IBM 」という程、コンピューター業界の「蒼き巨人( Big Blue )」であった。マイクロソフト、オラクル、インテルなど世界に名だたる IT 企業も、IBM なくして今日の姿は有り得ないほどの偉大な存在だ。
IBM の経営理念、事業の考え方、進め方などはとても素晴らしい。そういった基盤が磐石であるからこそ、なるべくして IBM という存在が生まれたのだと、今にして思う。
IBM に入社する以前の私は、最先端をいくコンピューターサイエンスの研究というものにしか興味がなく、ある意味では視野の狭いところが多分にあったかと思う。IBM にて、実用的な観点から、高度なコンピューター技術を元にして世界的な超一流のビジネスを創造し、維持し、発展させてゆく方法論というものを実地で学んた。( IBM には感謝している)
IBM で学んだ経営のヒントについてまとめてみる。
1. 経営理念
IBM では経営理念というものが大切にされた。IBM に入社すると、全ての社員は経営理念について 1 ヶ月間にわたって徹底した教育を受けた。
IBM の経営理念は 3 つの概念からなる。
1 番めは"個人の尊重"。社員の個性というものを尊重するということ。経営理念の中でも一番上にランキングされている。IBM では、顧客や株主以上に社員を第一番目に位置付けていた。社員が創造する商品やサービスから全てが始まるということだろう。
2 番めは"顧客への最善のサービス"。顧客が感動し、感激し、感謝するくらいのサービスを目指した。
3 番めは"完全性の追求"。仕事をやる以上、手を抜かず、常にパーフェクトなアウトプットを求めて行動するということ。
以上の 3 つが IBM の基本的な経営理念の考え方である。超一流のビジネスを為すために必要な事柄がシンプルに纏め上げられている。
2. THINK
IBM の礎を創ったのは Thomas J. Watson という人物である。彼は工場の作業員や事務員に至るまで、全ての IBM 社員が自律的に自ら考えて仕事をするスタイルを奨励した。
社員は自分の仕事に対して遣り甲斐や達成感というもの実感することができた。社員の仕事に対する取り組み方は他社と比べて、数倍も、数十倍も、違っていた。自然と、年々業績も伸び続け、遂には IBM はエクセレントカンパニーと称される会社へと成長していった。
IBM 社内では、ボールペン、手帳、時計、演壇など至るところに「THINK」という文字が刻み込まれていた。Thomas J. Watson によれば、本当の「THINK(考える)」という状態に至るまでには、以下の 5 つのステップがあるとしている。
STEP 1. READ (本や雑誌などを読む)
STEP 2. LISTEN (人の話に傾聴する)
STEP 3. DISCUSS (周囲の人たちと議論する)
STEP 4. OBSERVE (物事の推移を観察し洞察する)
STEP 5. THINK (考える)
5 つのステップを経て「THINK(考える)」という段階に辿り着くのだ。日常振り返ってみて、単に「考えている」ということだけをして何のアウトプットも出さずに、時間を無駄を過ごして人は少なくはない。超一流のアウトプットを生み出すために、上記に掲げた「THINK」に辿り着くまでの 5 つのステップはシンプルだが重宝な方法論だ。
追記:ある書籍によると、「THINK」には続きがあって、
STEP 6. CONCEIVE (考え方を打ち出す)
STEP 7. PERFORM (実践する)
STEP 8. LOVE (愛する)
ということに帰着するらしい。
3. ビジネスの真髄
今でこそ、IBM もコンピューターメーカーとして有名な会社であるが、その出発点はミンチなどを作るための「肉切り機」製造メーカーだった。何故、コンピューターメーカーになったのかの経緯は私自身よく覚えていないが、 IBM には「顧客の問題を解決する」ということを第一に考える社風があった。要は、顧客の問題を解決するために必要なものを創るという姿勢だ。顧客のニーズに合うように事業を展開した結果が今日のコンピューターメーカーとしての IBM という訳だ。
IBM 在籍時には、「未来の IBM はコンピューターメーカーでなくなるかもしれない」という話をよく聴いた。
IBM では、仕事をするときは以下のような考え方が徹底されていた。3 つの問いかけの中に、ビジネスを成功に導く重要なエッセンスが隠されている。
Question 1. 顧客は誰なのか?
Question 2. 顧客が抱えている問題は何か?
Question 3. 何故 IBM なのか?
以上の、「経営理念」、「THINK」、「ビジネスの真髄」の 3 つは IBM で学んだ、最も重要な経営の本質であると同時に、私の原点でもある。
◆書籍の紹介:
IBM の経営の基本的な考え方を知るには、下記の書籍が最も参考になる。ビジネスのエッセンスが簡潔にシンプルにまとめられている。
「IBM を世界的企業にしたワトソン Jr. の言葉」
Jr.,トーマス・J. ワトソン (著), Jr.,Thomas J. Watson (原著), 朝尾 直太 (翻訳)
ISBN: 4901234528