2004 年 12 月 05 日 : Chariots of fire
受験生に負けないくらいの勉強をしている。
何のために?
例えば、オリンピックの 100 メートル走の決勝レースで、金メダルを競うアスリートたち。それは僅か 10 秒足らずの出来事である。その瞬間、最初にゴールに到達したものにだけ金メダルが授与される。でも、10 秒足らずの、レースの裏には、4 年間の準備期間が隠れている。最も、綿密に、緻密に練られた計画を立て、実践してきたものが金メダリストとなる。
自分でやっていて思うのだけど、経営者の仕事もこれに近いのじゃないかな。一瞬一瞬の意思決定のために、その何百倍にも及ぶ勉強や研究がある。一つの意思決定のミスで会社が傾くことがあり得るだけに。
成長期にある会社は、マスコミなどのメディアから注目されたり、脚光を浴びることも多いけれど、あっという間に失墜することも多いのだ。急成長しているだけに、1 つの判断ミスが致命傷になってしまう。
経営者が勉強すべきものは、科目で言うと、仕事の専門分野はもちろん、経営、歴史、哲学、心理学、芸術など多岐にわたる。この世の森羅万象はそれこそ幅広いのだから。いくら時間があっても足りない。
業務の 99% は勉強といった感じである。学生時代の 100 倍は勉強しているのではないだろうか。まあ、それもブレークスルーを起こして、世界を変革し、会社や社会を発展に導きたい、という願いが根底にあるから、辛くはないのだけれども。
起業家は、世界に次々と起こる技術革新や新奇な事柄に、興味を見出して、学んだり、研究することが、楽しくできる資質の持ち主に向いた職業かもしれない。
アスリートのように、瞬間的な達成感がひとつのゴールである。
それを目指して勉強しているわけだ。
2004 年 11 月 28 日 : 成長曲線を描く
自分のであれ、人のであれ、成長を実感するということ。それは人生における最大の喜びであり、感動ではないだろうか。
何年も大企業で働いた経験があるからこそいえるのだが、ベンチャーほど人間的な成長を日々実感できる場は他に無いだろう。
ベンチャーでは、人は流星型の軌跡を描くように成長してゆく。ソフィア・クレイドルの社員は 20 代前半であり、彼らの成長のスピードに驚かせられると共に、それを楽しんで生きている。彼らからインスパイアされ、教えられることって多々ある。
それはベンチャー経営者にとって、最大の醍醐味かもしれない。
辛いことも多いが、ベンチャーはそれを労ってくれる、感動体験の連続なのだ。浜崎あゆみも歌っていたように、点がいつか線になる。宇宙空間の星のように、数え切れないほど点在するたくさんの小さい感動をつなげてゆけば、それはいつか緩やかな美しい曲線となる。何か感動を経験するたびに、人は自分の中に培ったその曲線に沿って、大きく成長してゆくのかもしれない。
大企業の場合、何年も先のことが見通せる。しかし、ベンチャーでは明日すら見えない。明日は自ら切り拓き、未来を創るのがベンチャーという冒険なのだ。
現代のパソコンの概念を考案した、コンピューター業界で最も尊敬する偉人、アラン・ケイ氏の有名な言葉に、
"The best way to predict the future is to invent it."(未来は自ら創るものである。)
がある。
いつもこの言葉を胸に刻んで、人びとが感動できるような「夢のある未来を創造する」ことを人生最大の目標として生きている。
2004 年 11 月 26 日 : Art is long.
傑作と称される「芸術作品」の息は永い。何百年、何千年、何万年と、その生命は永遠といってもよい。
モーツアルト、バッハ、ベートーヴェン。これらの巨匠が作曲したクラシック音楽の作品を好んでよく聴く。全ての作品のあらゆる旋律が、全体として完璧なまでに調和がとれ、言葉では表現できないくらい、心地良く美しい。
人びとから愛し続けられる「芸術作品」というものは、フォルムも美しく、眩しいほど輝いている、と感じる。
ソフィア・クレイドルは、スタッフがアーティストとして、製品(社内では「作品」と呼んでいる)をプログラミングし、マーケティングする。あらゆる面において、芸術的な感性を大切する会社である。
「芸術作品」のレベルにまで仕上げることによって、人びとから作品(製品)が永く喜ばれ、愛される。このことがスタッフの励みとなり、相乗効果を増すように、次の創作活動の意欲へと繋がってゆく。
芸術の本質は「その作品が好きかどうか?」というところにある。
自分たちが惚れ込んでしまうほどの作品だけが、人びとからも喜ばれ、愛される資格がある。だから、プログラミングにしても、マーケティングにしても、妥協は許されない。自分たちが惚れ込んでしまうほどの感動的なアウトプットが出せない限り、「芸術作品」と呼べない。
芸術への道程は長い。
心地よいソフトウェアのソースコードには美しいフォルムがある。モーツアルトが記した名曲の楽譜と同じである。作品であるプログラムのソースコードにも外見上の美しさを追求する。
創業当初、ベンチャーの宿命かもしれないが、背に腹をかえることができず、不本意な作品を世に出させてしまうこともあった。(一般的なマーケットの評価から言えば、十分品質的に合格していたのだが)
欠陥があるのではない。製品として充分に役割を果たし、人びとの役に立っていた。寸分の妥協をも許さないプロとしては不本意なレベルだった。
創業して 3 年となり、ラインナップは充実し、実績が生まれ、売上や利益も加速している。作品がよく売れるようになった。
フラグシップともいえる代表作品のリリースアップを全面凍結した。これまでの異常ともいえる研究開発スピードをひとまず緩め、人びとに永く悦んでもらえるような作品とすべく、そのクオリティを高める仕事に没頭するためだ。
3 年間もの長きにわたった、代表作品の研究開発プロジェクトがまもなく一段落する。2005 年春、我々の最高傑作とも言える「アート」を世に送り出せる日が今から待ち遠しい。
願わくば、人びとに末永く喜ばれ、親しんでもらえるような、息の長い「芸術作品」と呼べるものへと育ってほしい。
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2004 年 11 月 22 日 : 時は流れる
京都を舞台に繰り広げられた、平家物語は次の一節ではじまる。けだし、永遠の真理をついた鋭く美しい箴言だ。
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらわす
おごれる人も久しからず
ただ春の世の夢のごとし
たけき者も遂には滅びぬ
偏に風の前の塵に同じ
時の流れと共に何もかもすべてが変化してゆく。21 世紀に入り、変化もさらに加速をつけている。
いまとなっては懐かしい。右肩上がりの高度経済成長期は、ただ単純に決まりきったことを、決められたとおりする。それだけで良かった。創造性や独創性なんてものは一切求められなかった。そんな言葉は存在すらしなかった。
バブル経済の崩壊と共にモノ余りの時代が訪れた。本当に良いもの、価値のあるもの、役に立つもの、それしか人びとから評価されないようになった。いわば、"創る"ということが最も重視されるベンチャーの時代が幕開けしたといってもよい。
優良企業と称されていた大会社が次々と倒産し、吸収合併される。昨日まで誰も知らなかった会社が一夜にして誰もが知るところの存在となる。過去の歴史にたとえるならば、今は戦国時代なのかもしれない。多士済済のベンチャーが群雄割拠する時代となった。
混沌とする経済情勢の中、しばらく混乱が予想されよう。ベンチャーにとっては、運と実力、それ次第で、時流に乗り、這い上がれる。千載一隅のまたとないチャンスなのだ。
「運」というものは与えられるものではなく、自ら掴むものと悟ること。指を口に銜え、消極的にただ待ち構えているだけでは何も起きない。よくて現状維持が積の山。
17 年前、私は外資系コンピューターメーカーに入社した。コンピューターといえばその社名で呼ばれるほど、世界のコンピューター市場そのものを隈なく独占し、席捲していた。
当時、いまを時めく、マイクロソフトやインテル、シスコシステムズなんていう会社は零細も零細といってよいほど業界では無視できる存在に過ぎなかった。20 年の時を経て、コンピューター業界も大きく変貌を遂げた。
あの頃は人生経験も浅く、中学校で習った、平家物語の「栄枯盛衰」の意味するところなんて全然理解できなかった。世の中の変化というものを経験した今なら、少しはその意味がわかる。
巨大な企業も永遠ではなく、経営幹部らの奢りや傲慢によりあっという間に瓦解する、今日この頃。大企業であればあるほど、入社するなり、抜擢人事で経営幹部は有り得ない。
大企業に入社した場合、自分の命運はその会社の経営幹部に委ねられる。他人に自分の運命を左右されるほどリスクが大きいことはない。入社して数年後、そう思った。
30 歳前後の頃から、起業のチャンスを伺っていた。なかなか実現できずにいた。苛立たしい日々が何年も続いた。39 歳の時、ある日突然、人生において 2 度とないようなビッグチャンスが訪れたのだ。
起業するときに最も重要な要素は一緒に事業を展開するスタッフの人員構成。大企業といえども参入できないような、自分たちの強みを発揮できるニッチなエリアを見出すこと。2 つの条件が完璧に揃った。
早くも 20 代のうちにチャンスを掴む人もいるかもしれない。10 年かけてようやくチャンスにめぐりあえた。それだけにチャンスを大切にし、育てたい。
2004 年 11 月 16 日 : 及ばざるは過ぎたるに勝れり
はじめまして。
ソフィア・クレイドルの杉山和徳です。
滅多に外出しない。いつも好きな曲を聴きながら、会社で仕事に集中している。たまたまこの日記を書く機会を得た。いろんな情報を発信するように心掛けたい。
ソフィア・クレイドルという会社の紹介から始めよう。
創業して早 3 年。光陰矢の如し。改めて時の経つ速さを実感する。いろいろあった。今では事業の成長に悦びを感じることも多い。
ソフィア・クレイドルは携帯アプリ向けのソフトウェアテクノロジーを研究開発し、マーケティングする会社。例えばプログラム圧縮、ユーザーインターフェイス、アプリ開発環境などを研究開発してきた。
ずっとソフトウェアに携わってきた。自分の強みを活かした起業なら、必然的にソフトウェア業だった。全財産を賭けて勝負する以上、最終的には成功したい。成すべき事業の領域については、とことん考え抜いた。
ソフトウェアベンチャーで成功するための、重要なポイントっていくつかあると思う。次の 3 つが極めて重要な原理原則と考えた。
1. プラットフォームの普及
2. 世界マーケット
3. クオリティ
会社を創業した頃( 2002 年 2 月)、3 つの条件をすべて満足するものをひとつ見つけた。世界で急速に普及が進むクアルコム社の CDMA と呼ばれる次世代携帯電話のプラットフォーム BREW をターゲットにしたソフトウェア事業である。
これまでは、事業の根幹となる製品を創り、実績を積み重ねるのが主なテーマだった。2005 年からの 3 年は、世界への製品マーケティングが最大の目標だ。
創業当初想い描いていたシナリオと現実は大きく食い違う。幸い会社は存続し、時の経過と共に業績が向上している。
「人の一生は、重き荷を負うて遠き路を行くが如し。・・・」で始まる徳川家康の遺訓がある。最後は「及ばざるは過ぎたるに勝れり」で締め括られている。
ベンチャーは「ヒト」、「モノ」、「カネ」すべてがゼロからのスタート。
"及ばざるは過ぎたるに勝れり"
「弱み」を「強み」に転換できれば、ベンチャーの活路は見出される。
何もかもすべて不足している。だからこそ全員が真剣に創意工夫する。そのスタンスは人を成長させる。会社はぐんぐん飛躍する。
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