ホーム > President Blog : Sophia Cradle Incorporated

Sophia Cradle IncorporatedPresident Blog : History

2005 年 01 月 09 日 : Bootstrap

ブートストラップ」というコンピューター用語がある。全く別々の存在である「ハードウェア」と「ソフトウェア」とが一体となって、コンピューターが稼動し始めるまでの一連の処理手順のことだ。

最初は「ROM」にハードウェア的に記憶された「ブートローダー」と呼ばれる、ごく小さなプログラムがメモリーに読み込まれ、ハードウェアの初期設定がなされる。そして、「ハードディスク」に記憶されている「オペレーティングシステム」が読み込まれ、コンピューターは動作可能となる。

昔、初めてコンピューターを勉強し始めた頃、鶏と卵の関係みたいなコンピューターの根本的な動作原理に興味を持って、このことを熱心に研究したのが懐かしい。

ベンチャー起業というのも、経営が安定するまでの一連の出来事はコンピューターのブートストラップに似ているように思える。製品とお客様、どちらが先かはっきりとしないが、会社がある程度軌道に乗ってくると、なんとなく製品とお客様とがハーモニーを成すように感じる。

お客様から必要とされるもの、欲せられるものが製品として提供される様が、次第次第にパーフェクトに近づいてゆく。

コンピューターも ROM に記憶されたブートローダーと呼ばれる極々小さなソフトウェアが無ければ動作しないわけで、コンピューター全体からすればそれが最初の重要なキーとなっている。

ベンチャー起業においても、コンピューターのブートローダーに相当するような、キーとなる小さなきっかけが掴めるか否かでその後の道のりは大きくことなってくるのではないだろうか。

創業して 3 年が経過し、お客様の数もまもなく 100 件を超えようとしている。しかも、時の経過と共にお客様の数の増加の勢いは加速している。最初はなかなかペースが上がらず、歯痒い日々を過ごすことも多かった。

幸いなことに、ある日を境として世界が変わったかのようにお客様が増えている。これも最初のお客様から始まっているわけで、最初のお客様から注文書をいただいた感動は忘れえぬ思い出として脳裏に強く刻まれている。

スタッフがこの時の感動と感謝を忘れない限り、きっとベンチャーを弛みなく成長を続けるんだろうなと思う。

ここまで来るには地道なマーケティング活動が続いた。もともと押し売りのようにして、製品を販売する性質ではないので、営業的には苦戦することが多かった。逆に言えば、それが良かったといえるのかもしれない。

これまで特に意識してやってきたことは、お客様との対話だ。販売代理店網を創って、製品を販売するのではなく、当社がお客様に製品を直接販売する道を選択したので、必然的にお客様との対話が続いた。

製品が完成すれば、メディアに流す、プレスリリースの文章は、丁寧にどの仕事よりも力を入れて努力した。そして、いろんなメディアに掲載されることが叶った。製品開発で多忙な時期でも、携帯 JavaBREW の技術情報の文章を寄稿したり、情報発信に努めた。

それらをきっかけにして、お客様との対話が始まったように思う。最初は製品の無償評価版の提供をし、お客様から評価版を試用した感想や印象、評価といったものを根気強くヒアリングした。お客様も忙しいので、なかなか本音を話してくださらないが、次第に製品のどこを改善すれば、お客様に受け入れられるのかが分かってくる。同時に、お客様との信頼関係も深まっていった。

要はお客様との対話を繰り返しながら、製品の機能をゆっくりとバージョンアップしていった。閾値とはこういうことをいうのかもしれないが、感覚的なのだが、製品のレベルがある段階を超えた時点で注文が増え出したように思える。インターネットや i モードの利用者がある時点を境にして、急増したあの感覚に近いように思える。

お客様との対話を根気強く続け、それをフィードバックし製品を育てる。そして、お客様からの注文をいただいた時の感動と感謝を大切にし、堅実、着実な商売を継続することこそがベンチャー起業の王道のような気がしてならない。

続きを読む "Bootstrap" »

  

2005 年 01 月 06 日 : From the top of the world

13 世紀の始めのこと。ある不思議な人物が、突如として歴史の表舞台に現れ、人類史上最大といわれるモンゴル帝国を築き上げた。何故、無名の存在に過ぎなかったチンギス・カンが、そんな気宇壮大な伝説のような歴史を成し得たのだろうか。

モンゴル帝国のことを調べていて興味深かったことは、遠い国々へのモンゴル遠征軍は、主として少年たちで組織されていたことだ。しかも、故郷であるモンゴルを出発する時は、10 代前半の者がほとんどであったという。しかし、少年たちの軍隊を率いる指揮官は、歴戦練磨の戦士で、彼らを充分に教え鍛えることができた。遠い国への長い遠征の過程で、少年たちは、指揮官の指導に素直に従い、自らの武術に磨きをかけたという。そして、さまざまな実地での体験や訓練を通して、一人前の勇敢な戦士へと成長していった。そのようにして統率された軍隊は、古今無双の戦闘力、機動力を擁して連戦連勝し、人類史上最大の世界帝国が誕生したということだ。

このような過去の歴史の断片からも、未来に向けてベンチャー経営の戦略を立案するための、ある種の教訓や示唆が見出せる。

若きスタッフたちが、世界の檜舞台で、自由にのびのびと楽しく活躍できる場を目指して、ソフィア・クレイドルというベンチャーは創業された。なかにはそれが信じられずに去るものもいたが、年々世界の頂点へと近づいている。創業以来ずっといるスタッフたちにはそれがよく実感できると思う。

世界に通用するようなものは、どのようにして生まれるのであろうか。

それは、一朝一夕に生まれるものではなく、木の年輪が増えるように、その土壌や礎となるところで、長い歳月がどうしても必要なのに違いない。恐らくモンゴル帝国は、伝統を享け継ぐものが、長期的な視野から、少年たちをじっくりと実践で育てることで、帝国の繁栄を築いていったのではないだろうか。

世界の頂点を目指している。だから、何年ものロングレンジに渡って、若い頃から自分たちの技術、製品、そして会社そのものを継続して成長させたいと願っている。

大企業に所属していた頃は、配属された組織の壁があって、世界レベルでものごとを考える余地はほとんど無かった。入社した瞬間、サラリーマンというのは安定しているけれども、数学でいうところの上限がある世界に思えた。

ある意味、ベンチャーを創業して思うのは、反対にこんなことだ。たしかに数学的に言えば、やりかたを間違えると、すべてを失うことや−∞となってしまう可能性もある。だが、+∞という数学も現実に存在する世界でもある。それこそ、創業したばかりの頃は、『世界を狙う』、という表現すらが夢物語としてしか捉えることが出来なかったかもしれない。いま残っているスタッフたちは、オリンピックのゴールドメダリストのように世界の頂点に立てる日を信じて、真剣に仕事に取り組んでいる。

去っていったスタッフたち、そしていまのスタッフたちのために『Dreams Come True. 夢は実現する』ということを実証したい気持ちでいっぱいだ。長期戦になろうとも、現実社会でいろんな経験を積み重ね、自らに磨きをかけ、いつの日か必ず世界で一番高い頂上に立ち、スタッフたちと共にそこからの美しい景色を眺めたい。

  

2005 年 01 月 04 日 : Entrepreneurship

2000 年を境として「モノ余り現象」が急激な勢いで進展している。そして、過去の歴史を振り返っても現代ほど個人が期待されている時代はないだろう。その個人に秘められた潜在的な才能や能力を、遺憾なく発揮できる場所、環境を提供できるかどうかで、その会社の未来が決定づけられるのではないだろうか。

こと細かく仕事の指示をすることは余りない。懇切丁寧に指図しないので、将来展望のようなものが見えないといって去る者もたまにいる。しかし、ソフィア・クレイドルでは、若きスタッフたちが、常識では考えられないほど、仕事を任せられ、自由闊達に活躍している。彼らの創作したソフトウェアは、数え切れないほど多くのアプリケーションで、実際に利用されている。

前途有望な若いスタッフたちの可能性を、できる限り伸ばそうとするならば、彼らが自ら機会を創り、自分の才能を切り拓いてゆくのがベストだと思う。これは私が起業した一つの理由でもある。

世間一般でいうところの大企業に勤務していたことがあった。その時に苦い経験をした。別に会社が悪いというのではなくて、私という存在がたまたま大企業で働くということに向いていなかっただけなのだが…。その会社自体は立派な会社だと今でも思っている。

大企業の場合、大きくなればなるほど、業務プロセスと個々の社員のミッションというものが細かくマニュアルに記載されていて、その範囲内で仕事をすることが求められる。範囲外の仕事をすると、業績評価の対象にもならないし、動こうにも制約が厳しくやりたいことがあまりできない。例外はあると思うが、だいたいそんな傾向にある。もしソフィア・クレイドルが大企業になった場合は、その例外の部類に属したいものだ。

コンピューターテクノロジーの進歩は早く、技術的な仕事をするのに、どうしても組織の定められたミッションを遂行するだけでは無理があって、その頃、やりたい仕事が全くできない日々が長く続いていた。組織の問題ではなく、そのミッションと私のやりたいことが合わなかったということだ。組織のルールに従えば、それで万事済むように思えるが、自分の才能や能力といったものを、潜在的なものまで含めて完全燃焼するくらいに頑張ることはできなかった。

ノーベル賞にしても、その評価の対象となるのは 20 代の頃の業績によるものが大半であるようだが、ソフトウェアのような仕事も、20 代の時にこそ世界を変革するような画期的な成果が生まれるものだ。

大企業にいた頃の職務内容は、既成概念のもとに作成された事業計画をトップダウンに展開し、その一部をある社員が受け持ち、それを計画通りうまくやれば、「A」や「SA」というような最上位の業績評価を受けることになる。成績が良いのは、ボーナスや昇給、昇格に繋がり、個人的な生活の上では満足できるかもしれないが、与えられた職務範囲外や計画外のことまでやれば、社会にもっと大きく貢献するような仕事ができた可能性も否めない。

そのような仕事ができる場を求めて、いろんなところを探したが、発見できずにいた。最終的には、今のように起業という手段で、ソフィア・クレイドルのスタッフたちと共に、私たちがやりたいことを自分たちが決めたルールで、自由に楽しく充実した人生を過ごそうとしている。

そんな経緯や背景があるので、スタッフたちには自己の潜在能力を思う存分に発揮してもらうため、できるだけ細かい指示はせずに、自由にのびのびと仕事をしてもらうように配慮している。だから、自ら計画し、ものごとを組み立てて仕事をすることに不得手な人にとっては働きにくい職場かもしれない。しかし、クリエイティブな人にとってはとても居心地の良い職場のようだ。彼らの素晴らしいアウトプットを見ていればそれがよく分かる。

例えば、29 歳の G 君は、あるフリーソフトの作者として日本全国にその名を轟かせるくらい、知る人ぞ知るような存在だ。H 君、Y 君の中高校の科学部の後輩でもある。つい最近、彼は、ある大手企業の中央研究所から依頼された PDA 向けのソフトウェアを、携帯電話に自動的に移植するシステムを1ヶ月足らずで完成させている。通常、このような仕事は、手作業で数ヶ月かけてプログラムを組みなおす、超面倒なかったるい作業だ。しかし、彼は、どんなソフトウェアでも自動的に携帯電話に移植できてしまうような汎用的なシステムとして、それを大変、エレガントに創った。

22 歳の E 君は、大学では理論物理学を学んでいる。プログラミングは趣味でやっているようだが、驚くほどアルゴリズムに強い。携帯電話で搭載されている CCD カメラを通して漢字を文字認識するようなシステムは、未だ発表されていないと思う。いま、彼はそのようなものを研究開発している。入社して間もないが、そのシステムはまもなくプロトタイプが完成する見込みで、とても楽しみだ。

(ある上場企業が同じようなシステムを開発している。しかし、それは文字のバリエーションの少ないアルファベットと数字、簡単な記号までしか認識できない。E君のシステムでは携帯電話で何千ものバリエーションのある漢字まで認識できる点が画期的だ。韓国語、中国語など多種多様な言語の文字認識にも汎用的に横展開できる凄い発明へと発展するかもしれない。ある意味でその未来にワクワク、ドキドキするような気分を抱かせてくれる。)

主に開発系スタッフについて述べてきたけれど、ソフィア・クレイドルでは、そんな風に、20 歳前後のスタッフたちが、一般企業のベテラン社員と遜色のないくらい素晴らしい成果をあげている。

しかも自律的に自ら機会を見つけ、自分で目標を設定している点がとても評価できると思う。そういう次第で、ようやくこのような日記を書く余裕を持てるようになってきた。

  

2004 年 12 月 15 日 : ビジネスの軌道 −後編−

何が起こるのかよく分からない未知の世界へ挑むには勇気がいる。だが、ワクワク、ドキドキする楽しく愉快な気分も同時に味わえる。そう、みんな子どもの頃は知らないことを、日々ワクワク、ドキドキしながら学んで成長していったと思うけど、そんな時の感覚に近い。大人になってからもこんなふうにベンチャーをするのは、ある意味ではいつまでもそんな希望や夢を実感していたいからかもしれない。

過去に存在しなかった前例のない製品を研究開発するだけでも大変なことだ。その上、製品が、お客様にとって、喜んでお金を払ってまで使いたいというレベルに仕上げることができなければ、ベンチャーは市場から姿を消す宿命にある。そういう世界に自分の身を置いている。

実際には、命を落とすわけではないのだけれど、命を賭けた冒険に近い一面もある。だからこそ、それを達成できたときの光景は、冒険者たちが自分たちの野望を果たした時と同じくらい、誇らしい充実感に満ちたものなのだろう。

製品を研究開発するにあたって、その実現可能性については、未知の技術ではあるが自分たち自身を信じるしかなかった。塵も積もれば山となるように、大きな目標を小さくブレークダウンして、一歩一歩堅実に着実にプロセスを進めていった。諦めず、粘り強く、頑張ることで、遂に製品は完成した。厳しい局面もあったけれど、なんとか乗り越えることができた。普通の人なら途中で挫折し、諦めてしまうだろうと思うほど、大変な時期もあるにはあった。人生を賭けてやるんだという意気込みが後押ししてくれたのだと思う。バージョン 1 にしてはなんて素晴らしい!と自画自賛できる製品を完成させることができたのだった。

報道機関にプレスリリース文で新製品について紹介すると、新規性があり、市場に及ぼす影響力があるかもしれないということで、新聞、インターネットなどのメディアに私たちの製品や技術が採りあげられた。たくさんの先進的なお客様からその無償評価版への申し込みが殺到した。普段何気なく接しているマスコミというものの有り難さをその時初めて味わった。

ソフィア・クレイドルが扱っている製品の場合、一番厄介なのは何かというと、テストデータを自社で作れるほど人や時間がないということだった。例えば、携帯 Java 専用アプリ圧縮ツール SophiaCompress(Java) の場合、お客様も、何人もの人、何ヶ月もの時間を投入して、やっとの思いで一つの携帯電話向けゲームとして完成させる。それが一つのテスト用データというわけだ。しかもプログラムの構造のバリエーションは数え切れない。それら全てのバリエーションに対応させなければ安心して製品として販売できない。自社で自力で全てのケースを網羅するテスト用データを作ることは事実上不可能だった。自社ですべてのテスト用データを作るとすればそれだけで数億円以上の費用がかかったことだろう。

しかし、SophiaCompress(Java) を提供した当時は、類似製品は市場に存在しなかったので、お客様は前向きに評価版を試してくださった。ある時は、SophiaCompress(Java) が未完成であったために圧縮できなかったアプリケーションを、多くのお客様がテスト用データとして無償提供してくださった。お客様のアプリケーションで発生した不具合を、その都度修正することを繰り返すことで、製品の信頼性が飛躍的に高まり、実用化のレベルに達していくのが、実際見ていてよく分かった。このようにして、製品はお客様の好意に支えられつつすくすくと育っていった。

もし製品レベルの類似製品が既に市場に存在していたとすれば、こんな手を打つことは事実上不可能だったろう。そのチャンスを掴むことによって、膨大なコストをかけることなく新規性のある製品が常に問われる「信頼性」というものを飛躍的に高めていったのだ。同時に、お客様との対話を通じて、ニーズやウォンツを取り入れて、実用的な水準へとその価値を高めていった。このように、安心して、飛行機に乗れる状態にしていったのだ。

いまから、同じジャンルの製品を開発していこうとすれば、このような方法は難しいであろう。何千、何万もの膨大なテスト用のプログラムを自前で用意しなければならないし、信頼性を上げるためにその数を増やそうとしてもほとんど不可能だ。何よりも先進的なお客様との対話も難しい。恐らく、こういう背景があることも、競合他社が未だに現れない事情になっているのだろう。

新規性のある製品の場合、機能性以外に「信頼性」というものが大きくものをいう。我々は信頼性を飛躍的に向上させるために以上のような手段をとった。ご協力いただいた先進的なお客様には言葉では言い尽くせないほど感謝している。

こういう事業の進め方において、リレーショナルデータベースの世界ではダントツでシェアナンバー 1 の米国オラクル社が創業時に採った戦略を参考にした。リレーショナルデータベースの理論を世界で初めて考案し、発明したのはIBMEdgar F. Codd氏である。オラクルの創業者であるラリー・エリソン氏は、いち早くその論文を読み、その将来性を見抜いた上で、IBMよりもずっと早く未完成なリレーショナルデータベースを世の中に提供し始めた。当初、そのデータベースはバグだらけで、ほとんど使いものにならなかったらしい。が、リレーショナルデータベースを待ち望んでいた熱狂的な一部の顧客から支持され、いろんな不具合や市場ニーズを取り入れることを繰り返すことで、それを発明した IBM を差し置いてリレーショナルデータベースの市場では圧倒的なナンバー 1 企業となったのである。

歴史は繰り返すという。過去の事例から、適用できる手法はないかどうか探したり、研究することで得られる教訓は数知れない。


追記:

オラクル創業者、ラリー・エリソン氏の参考となる言葉

"I admire risk takers. I like leaders - people who do things before they become fashionable or popular. I find that kind of integrity inspirational."

  

2004 年 12 月 14 日 : ビジネスの軌道 −前編−

人はさまざまな経験を、記憶の中に残して積み重ねつつ、いつしか成長を遂げる。ふりかえってみて、成長の分岐点を見出すこともあるし、分からないこともあるだろう。

新規性のある製品は、どのように成長するのだろうか。

新規性のある製品とは過去に存在しえなかった製品である。

それを使用するということは、世界で初めて開発された飛行機に搭乗するようなものであるかもしれない。墜落する危険性を考えれば、誰しも乗りたくない。

大空を飛びたいという夢を共有する人。発明に対して新しい発想のある人。しかも搭乗して実験と検証をする勇気のある人がいなければ、飛行機は無く、現在の航空業界も存在しなかった。

無名のベンチャーが新規性のあるビジネスを展開しようとするのならば、最初に、どのようなお客様がいて、どんな夢を持ち、どのような状況で、製品やサービスを購入するのかを熟慮したほうがいい。

ソフィア・クレイドルは携帯アプリの圧縮技術ユーザーインターフェイス技術でスタートした。

現在も世界市場で同業他社を見出すことは難しい。製品が完成したばかりの頃は、知名度や実績、特に営業の点で見劣りする部分がかなりあった。今年の夏あたりからは急に風向きが変わったように、製品が自然に売れるようになった。

その経緯について製品の成長の観点からまとめる。

ソフィア・クレイドルが開発し、販売しているものは、携帯アプリの開発の生産性や品質を飛躍的に高めるツールである。

圧縮ツールにしてもユーザーインターフェイスにしても、いろんな種類の携帯アプリでの採用実績があって初めて製品として誇るに足るものになるのではないか。何の実績も無いものを使うというのを、先の飛行機の例で述べると、世界で初めて研究開発した飛行機らしきものに乗ってみることなのである。どうしても飛行機に乗らなければならない、という状況にあっても、いくら安全であると説明されても、それは、やはり危険な賭けであり、大変な勇気を必要とする行為だったのにちがいない。

創業時は無名であるソフィア・クレイドルの製品をなぜお客様が使う必要があるのか?

何の実績も無いのである。

携帯アプリの世界では、プログラムサイズの制約や使いやすいユーザーインターフェイスを持つアプリを開発することが想像以上に厳しいことに着目していた。

当時、世界市場ではどの会社もそんなことはしていなかった。実現できるかどうか、それから、開発したものが売れるかどうかということは客観的には分からない。

私たち自身、携帯電話向けのソフトウェアの開発者として、そのようなソフトウェアテクノロジーを渇望していた。抑えがたいニーズとウォンツはあるに違いないと信じた。

  

2004 年 11 月 21 日 : 売上をあげる

ソフィア・クレイドルの営業年度は毎年 10 月に始まる。今年度は第 4 期営業年度。

期が始まってまだ 2 ヶ月も経っていない。会計ソフトで残高試算表の数字をみてみると、前期と比較した、10 月から 11 月までの累積売上高の増減率の数字が 7000 %を超えていた。第 4 期は幸先の良いスタートをきることができた。できればペースを維持したい。

事業規模を大きく拡大したわけではない。1 年前と比較して、社員数は減っている。創業以来、経常の黒字は死守してきた。裏を返せば、それだけ第 3 期の前半までは営業面で苦戦を強いられる局面が多かった。

2004 年春から、製品販売に関して、研究開発部を含め、全員が一丸となって努力してきた。徐々に効果が具体的な数字となって現れてきたのであろうか。

類似製品は基本的には世界市場に存在しない。今、世界マーケットに競合製品は存在しないのだ。

創業の頃、「ソフィア・クレイドル」という社名も知られているわけではなかった。だから、お客様の立場からすると、「ホントに大丈夫なの!?」という印象が強かったと思う。起業家の方々には、ベンチャーが製品を販売する難しさをご理解いただけると思う。最初は想像を絶するくらい難しい。

ちょっと余談だが、創業の頃にお世話になったお客様ほど、爆発的に売上と利益を伸ばされている。なかには 3 年前は未上場企業だったのに、今では東証一部に上場されているお客様もいらっしゃる。

創業初年度にお世話になったお客様はいくら感謝の意を表しても表現しつくせないくらい、有難かった。お世話になっているお客様とは、これからも継続して良き関係を保ちたい。

大企業でサラリーマンをしていた頃は、「ブランド」が余りにも偉大だった。「ブランド力」を後光として営業成績を簡単に大きく伸ばすことができた。一旦会社を辞めてしまえば、もはや「ブランド」は使えない。これは大企業のサラリーマンが会社を辞めて起業したときに、誰もが経験する最初の辛くもあり厳しい大きな難関、現実なのだ。

ベンチャーというものはスタッフの総合した実力が全てな訳だ。自己の能力の限界にチャレンジしてみたい、或いは自分の真の実力を知りたいと思う人にとって、ベンチャーほどそれが単純明快に理解できる場は他に無い。

拙い経験からいえることは、大企業の場合、どうしても自分以外の他律的な要素が働き、それが実績となって現れていることが往々にしてある。大抵の人はそれが自分の実力であると錯覚する。

大企業に在籍している時はどうしても自己の能力を過信してしまうきらいがある。現実は、単に製品に「ブランド力」があるから売れているにすぎない。それに気付かずに起業すると大苦戦も甚だしい結果となる。

売上を安定させ、ぐんぐん伸ばすためには、ベンチャーといえども、大企業のような「ブランド力」をどうやって築くかが最大のテーマになると考えた。まだまだソフィア・クレイドルのブランド力は弱い。が、努力すること、思うことの強さで如何様にもできる。

ブランド力そのものが会社の生命線になると考えて、マーケティング部を中心に「ブランド」について勉強し、毎日実践を繰り返している。少しでもいいから着実にブランド力を向上させようとしている。年齢が若く、経験の浅い社員ばかりだが、あくなき努力と若さでカバーしようとしている。

一年前までは、会社として、営業は個人の能力や才能に頼る面が大きかったと思う。営業担当が保険会社や自動車会社のトップセールス並に売上をあげていたのであれば、何の問題意識を持つこともなく素通りし、あとでもっと大きな取り返しのつかない壁にぶつかっていたかもしれない。

「人間万事塞翁が馬」である。不幸中の幸いかもしれないが、ソフィア・クレイドルにトップセールスはいなかった。全員で真の意味で営業力やマーケティング力を強化するために真剣に取り組む機会をたくさん得ることができた。

マーケティング部を核にして全員がチームとなって、どうやって研究開発部が創った素晴らしい製品を、人びとに届けるかについて、研究を積み重ねている。

営業は人的な要素に頼るところがある。しかし、それに頼って組織を構成すれば、トップセールスが会社を辞めれば売上がガタ落ちとなり、下手をすれば倒産ということも十分あり得る話だ。

最も注力したことは、誰が営業であろうと(ソフィア・クレイドルでは「マーケティング」と呼んでいる)、最低必要な売上の数字は確実に楽々叩き出せるような販売システムを構築することだった。ヒントはサラリーマン時代に遡る。

大企業でサラリーマンをしていた頃、どちらも有名大企業であるが、大手清涼飲料水メーカーや大手通販会社をクライアントにして、マーケティングシステムのコンサルテーションや情報システムを構築するプロジェクトを経験した。プロジェクトマネージャーとして仕事をさせていただいた。全貌がよく分かり、数多くの価値のある商売のヒントを得ることができた。

どちらの企業にも共通に言えたのは、誰が注文を受けるにしても自然に売上が上がるような仕組みになっていたということ。

例えば、清涼飲料水メーカーの場合、街角でよく見かける自動販売機に関していえば、販売員はこの機械にジュースやコーヒーを詰め込むだけで売上が上がっていく。優秀な自販機は一年間で軽く 1000 万円を超えるセールスを記録した。下手すれば年間売上 1000 万円ですら達成できない営業マンは五万といるだろう。それをたった 1 台の自販機が自動的に、オートマティックに、この上なく美しい数字として弾き出してくれる。

事業を大きく伸ばすには、将来的にそのようなビジネスの仕組みをシステムとして実現する必然性がある。いきなり、そこまではは不可能であるが、ステップ・バイ・ステップでそのゴールに辿り着けるように創意工夫を重ねている。

この一年間でやったことを簡単に列挙してみる。

1. IT media mobile への寄稿:" BREW プログラミング入門"

2. 独自の BREW に関するノウハウの無償公開

3. SEO 対策の実施

4. Web の製品情報の充実

5. 無料評価版ダウンロードサイトの開設

6. 英語サイトの開設

7. 業務プロセスのマニュアル化

いま、このような努力は現在進行中であり、必ずしも完成しているわけでない。理想とする最終形からいえば、ほんの 5% 程度の完成度でしかない。創意工夫、改善、改良の余地はまだまだたくさんある。個人の才能や能力に依存しない販売システムをできるだけ早く理想形にもってゆきたい。

  
<前のページ |  1 | 2 | 3 | 4  |