2002 年 2 月の創業以来、スタッフの定員は 16 名限定で"ソフィア・クレイドル"というベンチャーを経営している。将来、しかるべき条件が整えばその定員を増やすことは充分にありえるけれど、当分の間は定員 16 名で事業運営しようとしている。
ベンチャー事業にはその内容に応じて適正規模があると思う。要は 16 名という規模に押さえることで必然的に事業内容を絞らざるを得ない状況を創り出そうとした。そうすると一緒に仕事をするスタッフも自ずと少数精鋭となる。適正規模を維持することで、その集団が生み出すアウトプットが自然に極大化するシステムが重要だと考えた。
先日の BLOG で紹介したマイクロソフト創業時の成長の奇跡を見てほしい。著しい売上の伸びを遥かに下回るペースでしか人員は増えていない。
ソフトウェアビジネスの場合、結果が具体的な数字として現れるには少なくとも 3 年かかる。表の場合、1979 年に 1,356 千ドルの売上の数字と 1975 年の従業員数 3 名という数字。1975 年に 3 名で開発したソフトウェア( BASIC というプログラミング言語)が 1979 年に売れ始めて 1,356 千ドルと読むこともできる。 3 名で年間 1,356 千ドルの売上というのは決して悪くない数字だと思う。それにマーケティング理論の S 字形の売上曲線をたどればしばらくは何もしなくとも売上は増える一方である。これがソフトウェアビジネスの真髄といえよう。
[マイクロソフトの成長の軌跡 : 1975-1980 のデータ ]
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年度(年) 売上高(千ドル) 伸び率(%) 従業員数(人)
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1975 16 − 3
1976 22 38 7
1977 382 636 9
1979 1,356 256 13
1980 2,390 76 28
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※ 「マイクロソフトシークレット」より
プロフェッショナルな世界ほど定数というものが限られている。それによってオートマティックにクオリティが維持される機構が働く。J リーグならその最高峰である J1 は 12 チームでありプロ野球でも 1 軍は 12 チームである。さらに各チームで正式な選手として登録できる人数にも定数が決められている。
だからこそ個々の選手が切磋琢磨しながら自分に秘められた潜在能力をできる限り顕在化させようとする。すると感動的なプレイが生まれ観客は満足する。そういったプロフェッショナルなメカニズムは、ソフトウェアを開発し販売するというベンチャービジネスでも有効である。
ビジネスという観点からは、ソフトウェアビジネスの儲けの本質とは一体何かという問いかけはとても大切だ。そのヒントは単純である。既にソフトウェアビジネスで成功を収めたベンチャーの歴史をたどってみると良い。
マイクロソフトはプログラミング言語( BASIC )、オラクルはデータベース、グーグルは検索エンジンといった例を挙げることができる。ソフトウェアビジネスで顕著な成功を果たしたベンチャーは何れも勝負を賭けたソフトウェアのヒットをきっかけにして飛躍した。ソフトウェアビジネスでは、まずどのソフトウェアで勝負を賭けるのかその選択と集中をする。そして決定したそのソフトウェア開発に全力投球するというのが肝要だろう。
AだけよりもAとBという複数のソフトウェアを開発し販売した方が儲かりそうな気がする。しかしBよりもAが有望であればAに集中特化する方がソフトウェアビジネスは儲かる。なぜなら研究開発が完了すればソフトウェアの原価は限りなくゼロに近いため、
粗利益 P = 売れたソフトウェアの本数 N × 単価 @
という数式が成立するからである。
AとBの両方を手掛けために力が分散しAとB共に売上本数ゼロで共倒れになるリスクもある。成功しているソフトウェア会社を見れば明らかなのだが、売れるソフトウェアは圧倒的に売れるけれども、売れないソフトウェアは全く売れない。大抵の場合は売れない。しかし上の数式のNの値がゼロでなければもっと売れる可能性は充分にある。全世界をターゲットにすれば限界のない数字に近い場合もある。
集中特化するソフトウェアがひとつだけならそれを開発するための人数は少なくても良い。むしろ大切なのは如何にして数式のNを増やすかである。それはその組織を構成する人材のクオリティと関わる問題であり、その組織に合った人材をどうやって集めて維持し洗練させてゆくかという問題に帰着される。その一つの解としてその組織の定員を限定するという発想がある。