2005 年 11 月 15 日 : 多様性の中の集中
サラリーマンの頃と比べて、質と量で計れば 10 倍以上の仕事をこなしている。言い換えれば、10年分以上の仕事を 1 年でやり遂げている。特に苦痛を感じているわけでもなく、ごく自然に働いた結果そうなっている。
これは独立独歩で人生を生きることの代償と言えるかもしれない。逆説的ではあるが、個人的には寧ろその境遇の中で心の充実感を味わっている感覚がある。携帯電話向けソフトは新しい業界と位置づけられる。僕たちのようなベンチャーが大勢を占める世界でもある。
他のベンチャーも僕たちと同じくらい創意工夫を絶やさずに様々な仕事に励んでいるだろう。だから周囲のベンチャーがそれだけ集中して仕事をしている中にあって、生き残るのは並大抵のことではない。ほんのちょっとの油断が命取りになる。
例えばプロスポーツの世界はシビアである。0.01 秒という僅かの差であっても 1 位と 2 位とではかけ離れている。それではその隔たりは一体どこから生じるのかというのが大切な問題意識となる。
きっとそれは己の限界に、どこまで真剣にチャレンジしてきたかの結論であるということに尽きる。元来、人は弱い生き物であると言われる。ある程度の段階まで辿り着いた途端、それで良しと満足してしまい進歩や発展というものがそこで止まってしまうものだ。
それがプロとアマ、或いは世界と地区という大差に繋がってくるのではないだろうか。
2005 年 11 月 13 日 : 未知の領域
生き物は環境に適応して育つと言われる。ベンチャーは起伏のある世界である。だからその環境に置かれた人はそれにともなって、自ずとダイナミックにのびるのかもしれない。"ベンチャー"という環境に身を委ねるから、新しい自分を発見し成長を実感できるチャンスにも巡り合える。
起業家は自分の財産を事業に必要な資金に充当するのが普通である。サラリーマンであれば仕事に必要な道具や資材、設備などは会社が用意してくれる。
言葉で表現すれば至極簡単である。けれども 2 つのスタンスには大きな違いがある。要は世界が全く違って映ってくるのだ。
財産でも家とか車とか、人にはそれぞれ自分が特に大切にしているものがあると思う。それと同じ感覚で事業を捉えることが自然にできる感じだ。
そんな環境で仕事をしていると事業にも愛着が生じてくる。結果的に創造した製品にもそういう気持ちの雰囲気が漂うものとなる。大企業にはないベンチャーの最大の特長かもしれない。それがいきいきと伝わってくる製品は支持され売れてゆくのだと信じている。だからその雰囲気をできるだけ大切にしたい。
それ以外にも、製品の研究開発、デザイン、マーケティング、販売、保守、それから経理、資金繰りなど様々なことを自分自身の力に頼るしかない。そういう環境に自分を置くので未知の新しい世界も切りひらかれるのである。
そういうプロセスを経て自然とベンチャー事業はひとり立ちしてゆくだろう。日本に暮らしているから日本語を不自由なく話せるのと状況は同じである。
その眺めを楽しんで天頂目指して、のびのびと果てしなく描かれる美しき軌跡のかたちを、こころにしっかりと刻んでゆきたい。
2005 年 11 月 08 日 : Energy
"天文学的な・・・"といういわれるこの広大な宇宙も137億年前はただの"点"に過ぎなかった。137億年前の"ビッグバン"と呼ばれる大爆発を契機にして、今日の宇宙は生まれたらしい。
アルベルト・アインシュタインの特殊相対性理論によれば、
エネルギー = 質量 × (光速の 2 乗)、 即ち E = mc2
という方程式で、エネルギーと質量は等価交換可能である。
何も無いところから、エネルギーが集中して今日の宇宙ができたとすれば、想像し得ないほどの巨大なエネルギーが宇宙の始まりであり、"ビッグバン"が発生したその 1 点に吸い寄せられたのであろう。それだけのエネルギーがあったからこそ、今日の宇宙があり、それ以下のエネルギーでしかなかったらまだ"点"の存在に過ぎなかったのかもしれない。
ある意味では、ベンチャー事業というのは"無"から"有"を創り出す、宇宙の"ビッグバン"に似た現象にも思える。アインシュタインの方程式から分かるのは、エネルギーを質量のあるものへ変換するには、膨大なエネルギーを 1 点に注ぎ込む必要があるということだ。
果てしない広がりを持つ宇宙ですら始まりは 1 点に過ぎない。限りあるベンチャーであれば尚の事。2 点以上で勝負はできない。精力が分散されるために、1 点にエネルギーを集中させれば起こっていたであろう"ビッグバン"を目の当たりにすることなく終わってしまうかもしれない。
"無"から"有"を生み出す最善の方法は、あらん限りの情熱、エネルギーをその 1 点に注ぐという強い意志を持つことである。集約されたエネルギーがある閾値を超えた段階でビッグバンは起こり、かたちあるものが生まれるのではないだろうか。
2005 年 11 月 07 日 : 売れる瞬間
ベンチャーのメリットは、自由に自分の好きな仕事ができるという点にある。しかしそのスタイルを続けるには前提条件がある。創造した製品やサービスがお金を払ってまで欲しいと思うものでなければならないということである。有りがちなのは、ひたすら自分の好きな道を突き進んで玉砕するパターンかもしれない。
キャッシュフローがなければ何れ資金は枯渇し経営破綻する。キャッシュフローが発生するのは、製品やサービスが"売れた瞬間"である。その瞬間の状況をリアルに鮮明にイメージできれば、きっと製品やサービスは売れる。そしてそのベンチャービジネスはさらに飛躍することになるだろう。
製品やサービスが"売れた瞬間"をリアルにイメージすること。このイメージトレーニングが等閑になっている人が多いのではないだろうか。
今、Ajax という JavaScript と XML と非同期通信 の技術を組み合わせた新しい Web サービスが注目を浴びている。この技術を使って、Zimbra という米国の IT ベンチャーはマイクロソフトの OutLook と同等の機能を Web で実現している。
Ajax 技術を応用すれば PC 上のデスクトップアプリケーションが Web サービスとなって、PC にある全てのデータをネットのサーバーで一元管理することも可能になってくる。
ブログで使われるようになった、サイトの更新情報の要約をリアルタイムに配信してくれる RSS がある。RSS リーダーを使うと、これまでブラウザの"お気に入り"に登録していた情報の更新状況がリアルタイムに把握できるようになる。
ネット上のサーバーにある、XML ベースのニュースや株価、天気予報などの情報をリアルタイムに知りたい時もある。RSS リーダーに登録された情報が一元管理されたネット上のサーバーにあって、携帯端末からいつでも見れるとすればどうだろうか?
ニュースや株価、天気予報など、その瞬間だから価値を持つ情報は携帯端末で更新されたタイミングで知ることができればとても便利である。そういったものを実現しようとすれば、携帯端末向けの XML パーサーや非同期通信、 JavaScript と同等のものがあれば実現可能である。
Ajax 技術を応用したモバイル版 RSS リーダーと XML ブラウザは話題を呼び、新聞や Web のニュースサイトに掲載されそうだ。多くの人びとが興味・関心を持ち、期待を寄せ、トライアル版を入手する。そしてその使用感を確かめる。使用感が必然的に想像以上のものであった時、それが"売れる瞬間"だ。
アプリケーションが利用される、すなわち"売れた瞬間"をイメージする。そしてそれを構成する要素技術を実現するというアプローチを採れば、少なくともそのアプリケーションがあるから、キャッシュフローが生まれる確率が上昇する。それを足掛かりにしてベンチャーというビジネスは成長してゆく。
2005 年 11 月 03 日 : アンチテーゼ
大企業に勤務していた頃の素朴な疑問が今のベンチャービジネスに繋がっている。
何万人もの社員がいる大企業には、標準の 10 倍以上の成果をあげる有能な社員がいる。大企業で勤務した経験があるのなら、その事実に異論を唱える者はいないだろう。
それではそんなにも有能な社員は標準の 10 倍以上の年収を得ているだろうか。状況は変化しつつあるけれども、大企業ほどそんな会社は噂にすら聞かない。
同様に急成長しているベンチャーが 1 年間で社員数が 3 倍に伸びたという話はよく聞く。しかし 幹部の間ではあり得るけれど 1 年間で社員の平均年収が 3 倍になったという話はあまり聞かない。
多くの人が何となくおかしいと思いながらも、実際には行動しない。そんなニッチにベンチャーのビジネスチャンスは隠されている。大切な経営に関する指標は社員 1 人当たりに換算したものではないだろうか。
人材は世界中から募るが、滅多に募集しない。何故なら 1 人で通常の 3 倍の仕事をするのならば 3 倍の年収が得られるような会社にしたいから。注文が 3 倍になっても仕事をする人数が以前と同じなら簡単な算数ですぐに計算できる。そんな会社が理想。
好きな仕事ができて、成果に見合う収入が得られるようにしたい。そうであれば、数は少なくともその分だけ気心の知れた素晴らしい逸材はきっと集まるだろう。
普通よりも 10 倍仕事ができる人が 10 人集まるというのは何を意味するのか?
それは 10 人 × 10 倍 = 100 人分の仕事が 10 人でなされるのではない。その 100 の 2 乗である 1 万人分の仕事が 10 人でなされる感じだと思う。
2005 年 10 月 31 日 : 合格ライン
成長の曲線もS字のカーブを描くように思える。
最初は成長は緩やかだけれども、時の経過と共に成長は加速し、やがてその成長も緩やかになる。そして次の成長フェーズへと進む感じである。
製品開発やマーケティングの際、思うことがある。それは成長のペースが緩やかになって来た時に採るべきアクションについてである。ひとつの考え方は大体出来上がってきたからそれで良しとし終了する方法。もうひとつの考え方は合格ラインまで何かが欠けるとして残り0.1%の完成度を追う方法。
これまでのビジネスの経験から言えることは、製品が売れるための目には見えないある一定の合格ラインが存在している。時間と労力を費やして創られた商品も売れるかどうかはその合格ラインをクリアしているか、で決まると思う。
少しでも合格ラインに達していなければ売れないし、少しでも合格ラインに達していれば売れるといった感じではないだろうか。水が摂氏 100 度になった瞬間、液体から気体へと相転移する現象に似ている。
難しいのはその合格ラインが目に見えないという点だろう。どれくらいやればそこに到達できるのかも経験に乏しければ把握し難い。確実に言えるのは、全力の限りを尽くすことさえすれば問題は回避できるということ。
人はたぶん精神的に弱い生き物で、せっかくいいところまで来ているのについそこで妥協する傾向にある。もう少しで合格ラインに到達できるのにその手前で辞めてしまうことが多いと思う。とても難しいけれども大切なことは、持続して遣り残した点を徹底的に洗い出し、それらをパーフェクトと見なせるまで完成度を高めてゆくアプローチである。
2005 年 10 月 31 日 : 曲線の形状
ベンチャービジネスで自分の思いを実現するには、理想型のS字カーブをイメージして自ずとそうなるように経営する習慣がキーになるだろう。スポーツの世界であれば、それはイメージトレーニングに相当するのかもしれない。
どうすればS字カーブの最初の曲線が上向くスピードが速くなるのか?
どうすればS字カーブの山が大きくなるか?
どうすれば理想的なS字カーブの曲線を繰り返し描けるのか?
千円札を 1 万円札に交換してくれる店があれば、間違いなくその店には長蛇の行列ができる。しかし原価千円の商品を価格 1 万円で販売していても、長蛇の行列ができる店は極めて少ない。その商品に潜在的に 1 万円以上の価値があっても、である。
では、それは何故か?
と考えてみるところから出発すれば思わぬヒントが得られるかもしれない。
商売の基本は、お客様に、千円の商品に 1 万円の価値をリアルにイメージさせることではないだろうか。千円札を 1 万円札に交換してくれるところがあれば人は殺到するから、そんな商売であれば間違いなく繁盛するだろう。
そして、お客様が実際にその商品を手にして本当に 1 万円の価値を得たと実感すれば、そうある限りその商売はきっと永続することだろう。
では何故そのような商売は現実にはあまり存在しないのだろうか?
ひとつには錬金術のごとく、それだけの価値を有する商品を創造するのが困難だからである。そんな商品は究極のある一線を超えない限り生み出し得ないものである。高いハードルに敢えて挑戦する人も少なければ、その一歩手前で諦めてしまう人がほとんどだからだろう。
逆に言えば、挑戦し諦めなければ、競争は限りなくゼロに等しく勝ち残れる確率は時間の経過と共に急上昇するものである。だから成功するまで諦めないというのが成功法則としてよく言われるのかもしれない。
もうひとつ言えることがある。それはどんなに価値あるものを創造したとしても、お客様の心に伝わるメッセージでその商品を表現しなければ意味がないということだ。
光のスピードは余りにも早く人の能力では察知できない。同じように偉大なものほど誰にでも分かるようにそれをメッセージとして表現するのが難しいというパラドックスが成立している。
このパラドックスをどうやって解くかが、偉大なベンチャーへと繋がる最大の関門に至る道程に思う。