ホーム > President Blog : Sophia Cradle Incorporated

Sophia Cradle IncorporatedPresident Blog : Vision

2004 年 12 月 20 日 : Kaleidoscope

世界は抽象化を極めれば、四次元の万華鏡のように不思議な魅力に満ちた景色になるのかもしれない。

「過去」、「現在」、「未来」の時間の流れと、「ヒト」、「モノ」、「カネ」の経営資源からなる空間の構成との関連を鮮明にイメージすることは経営者にとって欠かせない。

過去から現在への時の流れから未来の空間を予測できるかできないかで、その経営する企業の命運が大きく左右されるといっても過言ではない。

時間の流れに伴う空間の連続的な変化を見通すセンスを磨くためにはどのようにすればいいのだろうか。

経営的な観点、特に、会社を創リ出すということに絞って述べてみたい。

普段から心掛けているのは、音楽を聴くこと、それから絵画を観ること。

音楽を聴くことで、時間軸に沿ったリズミカルな感性を磨ける。歌には、簡潔な詩的表現に込められた“思い”とリズムのシンクロ二に感動も発見できる。強弱をつけたり、ペースを速めたり、遅くしたりと名曲に匹敵するように行動できれば、自然な流れで進めるんじゃないかと感じる。

名画の鑑賞では、な色合いとかオブジェクトの配置といったものの感性を磨ける。誰が見ても美しいと言われるような良いものができればいいし、プロジェクトに関わるスタッフや必要な資源を、どうやって適材適所させるか。それによって結果はまったく違った風に変化する。ほんの少しの断片によって景色が変わる万華鏡のように。

経営は、時間軸上に展開される事業の空間をどうやって最適に制御するか――である。プロデュースする、コラボレートするということである。

映画の場合、映画のシーンに合わせて、それにフィットする音楽が自然に醸し出されるような感じで、時間と空間をどうコントロールできるかということに似ている。

感性を磨く上で、音楽や絵画といったような芸術から感じ取り学べる要素は非常に多い。

日本の教育では、芸術以外の受験勉強が中心になっていることが多い。最近思うのは、芸術から得られるものが役立っているということ。名画、名曲、と言うものの、判断も人それぞれであるのかもしれないけれど、シンプルに考えて、まず自分が好ましいと感じるものを、大切に押さえていけば間違い無い。

京都には 1000 年以上にわたって生き残ってきた、音楽、建物、庭園、絵画、古文書など数多くの遺産がある。ほんの少し足を伸ばしただけで美しい自然、それも、昔ながらのナチュラルなものと人の手の粋を凝らしたものがある。

絢爛豪華とわびさびと、雄大な美とささやかな美とが共存している。ここには、時間と空間を想起させるありとあらゆる美しいものが有る。

願わくば、過去の遺産や伝統を受け継いで、京都の会社である、と名乗ることができるように会社を育て上げたい。

  

2004 年 12 月 18 日 : 魔法のエンジン

道端に 1 万円札が落ちていたとする。大半の人はその 1 万円札を拾う。1 円玉であったなら、ほとんどの人は拾わずに素通りするだろう。

逆説的なようだけど、ビジネスでビッグチャンスを掴むためには、1 万円札よりも寧ろ 1 円玉の方を拾う。そして、その1円を大切にし倍々に増やすことを考えるのがよい!

1 万円札を拾うと、人は増やそうという発想よりも、拾った 1 万円を無駄に使ってしまう傾向がありはしないか?1 円玉を選択するなら、その時点ではそれだけでは何もできない。増やすには何らかの思考が必要になってくる。

お金というものは、何も考えずに使ってしまえばそれで消滅してしまう運命にある。お金を増やすエンジンを手に入れることができれば、永遠に無限にお金が産み出せる。

お金には不思議なところがある。

ゲーム理論的に、ビジネスで大事なのは、どうやってそのお金を産み出すエンジンを構想するかだ。1 円しかなければ、増やさない限り生きていけない。必然的にそんな発想になる。

2 ヶ月経たないと 2 倍にならないとしても、昨日の日記の話に書いたように、継続して 2 ヶ月毎に倍になれば 5 年後には 1 円は 10 億円になっている・・・計算では。そのペースでいけば、10 年後には天文学的な金額になっているだろう。

最初は元手が少ないので増えるペースが遅い。諦めて脱落する人たちも多い。だからレースに参戦しているだけで、知らず知らずのうちに最終的に勝利していたりする。

目先のお金に囚われず、長期的な成功を得るために、1 円玉を拾うような選択をしてきた。最初は事業曲線は水平線を描いていた。徐々に傾きが上向くようになってきている。

確かに苦しい時期もあり、その度にさまざまな事情で離れてゆくスタッフもいた。創業以来残っているスタッフは、試練に耐えてきただけに、安定した企業で働いていた場合よりも、1 桁以上も成長して立派になっている。

「 1 円玉を拾う」という選択には別の意味もある。

それは何か?

目に見えない魅力がたくさん隠されているのに、見かけが地味過ぎて、好んで選択する人はほとんどいない。

最初から強力なライバルが全くない。喩えるなら、多くの人は、渋滞する道路で目的地を目指すのに、空いている逆の道を快適に自分の好きなペースで前に進むような感じだ。

IT 業界で言えば、ブログSNSグループウェア検索エンジンのようなシステムは、なんとなく派手で儲かりそうな感じがする。多くの人が跳び付いてしまう。

そこでは熾烈な激しい競争が繰り広げられる。マイクロソフトと正面切って競争して勝つのは至難の技だ。

混雑した息苦しいところは避けたいので、ARM というようなプロセッサで機械語のプログラミングをしたりする方を選択している。都会の大きな本屋でも ARM というプロセッサのプログラミングの書籍を探し出すのは至難の業。それくらい、いまは地味な世界である。

100 人中 99 人は ARM ってなんのことか分からないと思う。実際にはほとんどの人が日常生活で利用しているにも関わらず。

ARM は、世界中の大半の携帯電話に採用され搭載されている。パソコンで言えばIntel(インテル)のような存在だ。携帯電話の心臓部分に相当するものである。数の上では、インテルの CPU 以上に世の中に普及している。ほとんどの人はこんなに大きなマーケットがあるのに入ってこようとしない。

インビジブルだからである。

本当のビジネスチャンスはこんなところにあるものなのだ。

今、ユビキタスコンピューティングのビジネスとはこんな感じで展開される。

ARM を研究して、任天堂ファミコンのゲームが au の携帯電話で動作する成果も得られている。 

インビジブルな魅力溢れるマーケットで、こういうエンジンの仕組みを考え出す辺りにベンチャーが飛翔できる道が隠されている。

  

2004 年 12 月 17 日 : ムーアの法則 −流線型の軌跡を描く−

ベンチャービジネスをする以上、会社に関わる全ての要素が指数関数曲線を描いて成長することを願っている。皆が幸福になるために、どうすればその成長を達成することができるのかという戦略を策定し、実践するのは経営者としての最も重要な役割だと思う。

指数関数のカーブを描くには、事業領域を定める時に、指数関数の原理原則で業界そのものが動いている領域を探し出せば良い。

いまの携帯電話向けソフトウェアビジネスを創める前に着目した要素は、i モードが発表された 1999 年頃からムーアの法則(Moore's lawが携帯電話にその舞台を移して働きだしているという前兆だった。

ムーアの法則とは、「半導体の集積密度は 18 ヶ月で倍増する」という法則のことで、米国インテル社を創業したメンバーの一人、ゴードン・ムーア氏が発見した。携帯電話の場合、集積密度が毎年倍になるくらい急激なスピードで、ハードウェアは進歩している。

ベンチャーにとって毎年倍増のペースで業界が成長するのは非常に有難いことなのである。何故なら、大企業が参入をためらうような、最初は無視できるくらいニッチな市場も、ほんの数年で巨大な市場へと成長してゆくからだ。

指数関数曲線を描く」とはどういうことなのか説明してみよう。

例えば、最初は収入が 2 円でもそれが日々倍増すれば 1 ヶ月後にはいくらになるか即答できるだろうか。

実際に電卓で計算すると次のようになる。

     1日目:          2円
     2日目:          4円
     3日目:          8円
     4日目:         16円
     5日目:         32円
           …
    10日目:       1,024円
           …
    15日目:      32,768円
           …
    20日目:    1,048,576円
           …
    25日目:    33,554,432円
           …
    30日目: 1,073,741,824円

5 日目の時点では収入はたった 32 円だったのに、その後、数字の伸びが急激に増えて 1 ヵ月後にはその収入は 10 億円という規模にまで膨らんでいる。実はインテルマイクロソフトオラクルもすべてこの法則の波に乗って成長していったのだ。

これは数字の話であるけれども、偉大な「ムーアの法則」が、一種の超小型コンピューターと見なせる携帯電話の世界でも確かに働き、その波に乗ることは不可能ではないと信じて事業を展開している。

この事業はまだ始まったばかりなので、上の例でいえば、いまは 2 円とか 8 円とか 32 円の程度の市場でしかない。しかし、世界中の全ての人々が携帯電話を持つようになれば、世界の人口は 60 億とも 70 億ともいわれているだけにその市場は大きい。だが、世界で携帯電話を所有する人口が指数関数的に増加をするとは考えられず、ある一定の有限な飽和点に収束することになる。

けれども、1 台の携帯電話の中に入っている半導体に着目すれば、上で列挙した数字の如くその集積度が高まる。従って、今後、たくさんのコンテンツやアプリケーションをインターネットからダウンロードし、無尽蔵に記憶させることができるようになると考えることができる。これから 10 年間は急激な勢いで、携帯電話にネット配信されるコンテンツやアプリケーションの市場が急成長すると見通している。

以上のような目論見で、次世代携帯電話にインターネット経由でネット配信される、期待を膨らませてくれるような、次世代のコンテンツやアプリケーションを、簡単に、瞬時に、開発できるツールを提供し、個々の携帯電話のメモリに保存されているコンテンツやアプリケーション 1 個あたりに料金を課金するビジネスモデルを展開しようとしている。

現在、世界市場には 15 億台の携帯電話が普及している。3 年後には 25 億台以上にまで普及台数が増える見通しだ。「ムーアの法則」によれば、携帯電話 1 台あたりに記憶可能なコンテンツやアプリケーションの数も、年々指数関数的に増え続ける。

要するに指数関数曲線の波を捉えることが最も重要である。

  

2004 年 12 月 16 日 : ダイヤモンドの原石

ダイヤモンドの原石は時間をかけて磨かれることであの眩い輝きを放つ。ベンチャーというものはダイヤモンドの原石を発見し、それに磨きをかけてゆくプロセスに似ている。

米国オラクル社創業者、ラリー・エリソン氏も発言しているように、「いまは誰も気付いていないが、将来的に世間の脚光を浴びるであろうことに積極果敢に挑戦する姿勢」こそが次の時代を担うリーダーたちに必要とされる資質である。過去に偉大な業績を遺したリーダーたちの経歴を研究すれば、それがよく分かる。

世の中を観察していると、その逆を突き進んでいる人たちがとても多い。既に有名になっていたり、流行っているものに飛びつくという具合に。自分の人生がそんなことに左右されるとすれば、後悔することも多いかもしれない。

いわゆる一流といわれる大学や会社に入ってしまえば、なんとなく将来約束されたような安心した気分になる。努力をするのは入るまで間だけという人が多い。大抵の人は、自分の未来を、安定しているけれども発展や面白味の薄い状態にするために安定しているかに見える組織を目指す。

大企業に在籍していた頃に痛感したこと。大半の社員がそういう気持ちで働いている。だから時代を変革するような気概といったものがほとんど感じられず、ワクワク、ドキドキする気配すらなかった。10 年後、20 年後、30 年後の安泰した自分をはっきりとイメージできるから、大企業で働いているという人がほとんどだった。

それで何が起こるか?

本来は予想がつかないはずの未来を、主体的に創造する人が誰もいなくなり、最終的には衰退してしまうという流れ。ローマ帝国モンゴル帝国も、あれほど巨大だった帝国もいまや存在しない。他者を頼りにして、自分の生きる道を他者に委ねてしまう人々が増えるに伴い、組織は崩壊してゆく。

いまの日本では、戦後の高度経済成長期に大きく発展を遂げた大企業の多くがそのような症状を呈している。今後の行く末がとても危惧される。山一證券、ダイエー、UFJ 銀行などは氷山の一角に過ぎない。これから数十年のうちに、多くの有名大企業が次々と倒産したり、整理統合されたりしてゆくことになろう。

歴史を振り返れば、巨大な組織が崩壊するときには必ず新たなる新興勢力が出現し、それまで牛耳っていた旧勢力に取って代わってきた。そして新しい文明、文化が出現した。だから、このような混沌としたご時世のなか、ベンチャーは、旧態依然とした組織に代わって、新しい時代を切り拓いてゆく使命を担っている。

今は視界には見出せない。でも時の経過と共に姿を現すだろう偉大な何かを求めて励むということは、やりがいのある仕事だ。見えないものを見えるようにするというのは、魔法のような話だけに、それを現実とするには、ひたむきな訓練や努力が必要である。

ダイヤモンドの原石に輝きを与えるような仕事を目指したい。そこに人生にとって最も貴重な何かがありそうな気がする。

  

2004 年 11 月 25 日 : 事業領域を定める

東の東急電鉄、西の阪急電鉄。いずれの電鉄会社も未開で片田舎の土地を安価に買い上げ、宅地造成し、鉄道を敷いた。人々は、元値を遥かに凌ぐ高値でその土地を買い求めて集まっていった。そして、東急にしろ、阪急にしろ、今の姿ができあがった。

電鉄会社が巨大化していった経緯を洞察することで、商売の儲けについて、その本質を垣間見ることができるだろう。

人が集まるところで店を開かないと儲からない。しかし、現代では、人が集まっているところは競争が激烈すぎる。生き残るのさえ至難の業なのだ。

そこで、求められる発想とは何か?

それは、現在は誰もいないけれども、何故か突然、3 年後ぐらいに人々がどっと押し寄せるような場所を探し出すこと。その探索のセンスや、感性といったものを磨くこと。

ブームに流されやすい日本人の大多数はこういう発想がしづらいかもしれない。進学する学校、就職する会社にしても、本当はそれほど好みでなくても、自分に合っていなくても、人気の高いランキング上位のところに押し寄せてしまう。例えるなら、それは好き好んで通勤ラッシュの満員電車に駆け込むようなものだろう。

日本の大学受験最難関といわれる東京大学理科 3 類。「大学受験」という世界では最高峰である。しかし、東京大学医学部出身者で、ノーベル賞を獲るなりして、画期的な研究や社会への貢献をなし、誰もが知るような人はいるだろうか?辛うじて、受験界のカリスマ、和田秀樹氏が有名人といったところだろうか。

あんなに IQ が高いといわれている人たちでさえが自分の全知全能を活かし切れていないようだ。競争の激しいところにばかり注目が集まり、全員がそこに殺到し、無意味な競争を繰り広げて疲弊している。

これが日本の現実の姿だ。

こういう日本だからこそ、たとえ能力や才能で少々見劣りしても、コロンブスのように、まだ競争のない、将来性のある世界を発見するだけで、輝かしき未来への道が拓ける。

携帯電話向けソフトウェア事業を構想したのはちょうど 3 年くらい前のことだ。当時、あの i モードと呼ばれる携帯電話向けコンテンツサービスが活況を呈し始めていた。NTT ドコモの最盛期の時代だった。KDDI はいまのボーダフォンである J フォンにも携帯電話契約者数で追い抜かれて、どん底のポジションにあった。

「チャンスは KDDI に!」と、瞬間的に閃いた。

なぜなら、KDDI は次世代携帯電話の通信技術である CDMA と呼ばれる通信方式で携帯電話サービスを行っていたからである。いずれ携帯電話も旧世代から新世代に切り替わる。しかし、NTT ドコモは、通信方式が PDC だった。設備等の改変の段取りで、次世代携帯電話への切り替えが遅れに遅れていた。

周囲のモバイル関係会社はどこもかしこも NTT ドコモ詣でを繰り返し、KDDI 関連ビジネスは盲点のような存在になっていた。

ソフィア・クレイドルが経営資源を集中している BREW のサービスがKDDI でスタートしたのは、2003 年 2 月末のことだ。我々が創業した 2002 年、BREW は KDDI に採用されるかもしれないが、依然として未知数のようなモノにすぎなかった。

だが、この BREW という携帯電話のプラットフォームを提供していたのは、アメリカにあるクアルコムという名の会社だった。この会社は CDMA という次世代携帯電話の通信技術を研究開発し、これに関するありとあらゆる国際特許を所有していた。しかも、通信業界では国際的に知名度が有り、実績も兼ね備え、その名を世界中に轟かせていた。

数年のうちに、BREW というプラットフォームが世界の次世代携帯電話向けソフトウェアのデファクトスタンダードとなり得る、と自明の如く信じた。

しかも、日本のモバイル関連会社はどこもかしこも i モードに全力投球していた。これを見て、まさしく、人生において 2 度と訪れることのないビッグチャンスだとふたたび確信した。

このベンチャーに人生を賭けることができた。

  

2004 年 11 月 24 日 : 事業計画はシンプルに

どこの家庭にもあるテレビ。人は自分の趣味嗜好にチャンネルを合わせる。テレビは直接的に、間接的に人びとの潜在意識に大きな影響を及ぼしている。

ソフィア・クレイドルには数十ページにもわたる MBA のコースで習うような事業計画書は存在しない。過去、確かにそのようなものは存在した。大企業でのサラリーマン生活が長かったせいか、MBA の学位も取れそうなほど経営学なるものの勉学にいそしみ、立派に知識だけは自分のアタマの中に詰め込んでいた。が、それは机上の空論に過ぎず、ベンチャー起業には全くといっていいほど役に立たなかった。

現在の規模のビジネスであれば、形式的な事業計画書なんてものは不要だ。実用的なものだけがあれば良い。確かに、外見も素晴らしくしっかりした事業計画書は、資金調達の時には必要かもしれない。しかし、自己資金だけで事業が充分にまわり、金融機関、ベンチャーキャピタルなどの第3者から資金を仰ぐ必要もまったくないわけだから、敢えてそのようなものはいらない。実質的に事業を伸ばすことだけに集中する方が良いだろう。

ベンチャーを始めるときに注意しないといけないことがある。なんせ我々のチームはとても若いのだ。将来の逸材も最初はただの普通の人として出発する場合が多い。皆が皆、最初から超人的に仕事ができるわけではない。

スタッフの平均年齢は 23 歳である。事業計画もそのような年代に簡単に理解できるほどシンプルであるべきだ。スタッフのベクトルを一致させるためにも必要なことだ。ベクトルが合わなければ、各々のベクトルの総和はゼロ、場合によってはマイナスにさえなってしまう。これでは何のために事業をしているのか意味が分からなくなる。

さらに、時間刻みで激しく変化する業界の場合、もう一つ大切なことがある。それは年単位で計画を立ててもその通りにならないということだ。それに合わせようと無理すると会社自体がおかしくなることもよくある。これに対処するためには、最終的な着地点だけは明確に決めておくことだ。そして、そこに辿り着くまでの経路を、状況に合わせて、臨機応変に柔軟に、選択する方法のほうがよりベターではないか。

当面の着地点は、「自社のソフトウェア技術を 3 〜 5 年後に世界で 20 億台以上の普及が見込める全ての次世代携帯電話機に搭載させること」。これが乗組員が知るべきビジョンであり夢であり、この目標に向かって、「ソフィア・クレイドル」という船の針路を、毎日微調整しながら堅実に進めているのである。

変化の激しい、時代の最先端をいくようなベンチャーの場合、計画された年単位の事業曲線を辿ることを目標としない方が良い。寧ろ逆に、その日その日の事業曲線の瞬間の傾き(微分係数)と現在の値の最適なコントロールに集中するべきだ。これによって事業曲線の軌跡が美しく描かれ、目標とする着地点に最短経路で辿り着ける。

どんな冒険でも、瞬間、瞬間が大切なのだから、シンプルな事業計画書の必要性はお分かりいただけると思う。その冒険に参加する全員が、咄嗟に理解して行動するために。

実は、スタッフにも話したことがないのだが、事務所のどの席からも見渡せる「ホワイトボードに書かれている数字、文字、図など」が、いわば、現在時点でのソフィア・クレイドルの事業計画だ。事務所の「ホワイトボード」を冒険の地図と見なしている。その地図には事業全体のトレンドを示すために、私が描いた絵もあれば、技術のトップが書いた1ヶ月間の製品開発スケジュールもある。いまスタッフが議論している、社運を賭けた最高機密アルゴリズムの話もあったりする。

事業計画は刻々と変化してゆく。ソフィア・クレイドルに関わる全員がそれを発展させてゆくのだ。

トップ 1 %のルール」で、50 人分の仕事を 1 人でこなせるような少数の精鋭を集めれば、少ないオフィススペースでも充分事業ができるとお話した。いや、スペースは少ないほうが良いかもしれない。全員がいつでもホワイトボードを見渡し、無意識のうちに「いま、会社で大切なこと」を知るために。

ホワイトボードが、家庭にあるようなテレビのような役割を果たし、自然と全員の潜在意識の中に「現在」の経営上の最重要課題が認識される。
ともに会社の業績は伸びてゆく、と思っている。

  

2004 年 11 月 18 日 : 事業を育てる

今年は 4 年に 1 度訪れる夏のオリンピックイヤーだ。そのアテネオリンピックで、数多くの日本人アスリートたちが活躍したことはまだ記憶に新しい。オリンピックで金メダルを獲得するようなアスリートたちは自分の体力、気力のピークをオリンピックの開催時期に合わせて調整するという。
会社を起してその事業を成功させる場合においても、「その事業のピークをいつにあわせれば良いのか?」という発想は極めて大切だ。そのピークに合わせて、「ヒト」、「モノ」、「カネ」など事業に必要なすべての段取り(調整)をするのである。
あらゆる事業に、「導入期」、「成長期」、「成熟期」、「衰退期」という 4 つのフェーズがある。また、不思議なことに、それぞれのフェーズの時間の長さ(期間)というものが、ほぼ均等であることを知っているのは大切だ。事業の段取りが比較的スムーズにいく。1 年の間に春夏秋冬があって、それぞれ大体 3 ヶ月で区切られるのと同じような感じ。
私の場合、これまで 3 年ごとに仕事の内容そのものを大きく変化させながらやってきた。従って、普段から 3 年毎に「ものごと」を捉える習慣がついている。よって、事業も大きくは 3 年刻みで大きく捉えて進めるのが、自分には向いていると思っている。
まだ会社を創って 3 年未満の状態なので、今の事業はその「導入期」の終わり頃にあると位置付けている。いまの事業のピークは「成長期」が終わる、3 年後と考えて、そこにピークにもってこれるようにいろいろと創意工夫を凝らしている。
インターネットの世界では「1 年が通常の 7 年」というドッグイヤーなんていうキーワードをよく耳にする。しかし、会社を数百年以上にもわたって存続できるようなものにするには、そんなに焦らずにゆったりとして事業を捉える方が良いと思う。IT ベンチャーでは少数派であるかもしれないが、逆の意味でその方がニッチを狙うベンチャーらしいのでは。できれば会社が永遠に存続し、成長、進化・発展するようにしたい。
数年後に大成功することを考えるより、数十年に渡って継続的に成長する道を選んだ方が着実であり堅実である。
「導入期」でやったことは以下の通り。

  • 1. 世界を狙える才能を持つ人材の発掘と育成

ミュージシャンも才能がなければ、優れた音楽を創れないのと同じで、商品に関しても「爆発的に売れるモノ」を開発するにはそれに適した人材が絶対的に必要である。

  • 2. 最も可能性のソフトウェアテクノロジーへの集中特化

いくら才能があったとしても、創った商品が全てヒットするとは限らない。大リーガーで大活躍しているイチロー選手にしても 10 打席のうち 6 打席、或いは 7 打席は凡退するのだから。
最初の段階で複数の商品を試験的に手掛けることは重要である。その中から最も可能性のあるにエッジを効かせて勝負を賭ける。

  • 3. プレスリリースによる認知度の向上

無名ベンチャー企業が創った商品をマーケットに広めるためには、マスコミを使った広報活動が一番効果がある。プレスリリースなどの対外的な文書作成に関しては、常に微に細に入り創意工夫を凝らしている。

  • 4. マーケティングシステムの確立

ハイテクベンチャー企業によくあることだが、営業を他社に委ねることは最初の段階ではしない方が良い。何故なら、商品の初期段階においては、必ずしも顧客ニーズが全て反映されていないからだ。使っていて不自然なところがどこかにある。直販なら、お客様といつも対話しているから、売れるように商品が自ずと育つ。

  • 5. Web サイトの構築

21 世紀はインターネットをフルに活用しきった企業だけが生き残るような気がしてならない。インターネットの威力を最大限活用して企業運営するように心がけている。

  
<前のページ |  1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14  |