昔、高度な数学的理論に興味を持って、それに没頭していた時期があった。
多くは忘却の遥か彼方にあるけれど、最初に面白いなと思ったのが、「座標変換」という空間の見方に対する概念である。
3 次元空間であれば、3 つの座標軸で空間を眺めることができる。
でも、その 3 つの座標軸の選び方は無限にあり、その選択によって空間の概観が全く違って見えてくるのだ。
対象となる問題に応じて、適切な座標軸を設定することにより、その解は驚くほどエレガントに美しく展開されてゆく。
その時思ったのは、数学で大切なのは無数に選択しうるものの中から、状況に応じて、全体を美しく表現しうる根本的な存在を見出すセンスであるということだ。
そんな発想法はいまのビジネスでも随分と役立っている。
長年に渡り大学院博士課程まで数学を学んだだけの甲斐もあったと言えるだろうか。
ビジネスの空間においても、業界毎、企業毎 … というように、それぞれに考えやポリシーがあって空間を表現するための無数の基軸があると思う。
数学的な発想から、会社の命運は空間の基軸の選び方によって定まると考えている。
僕には、ソフィア・クレイドルで創造されたモノを世界中に広めたいという強い意志がある。
このビジネスを創めた時から「世界」しか眼中にない。
そんな空間をシンプルにエレガントに創り出すための座標軸は何か?という問題意識を大切にしている。
ヒントは、「志」の根源にある「世界」という点にありそうな気がした。
「世界」に広めるには、世界で全てに共通して言えるということが絶対に押さえるべき必須のポイントになると考えた。
ベンチャーだから、最初はニッチだけれども、将来的には爆発的にスケールアップして成長しうる、新しい空間を見出して、その空間を考え抜いて選んだ座標軸で眺めるのである。
着眼点はコンピューターの小型化のトレンドとプログラミングというプロセスへの業界の安易な取り組み方にあった。
コンピューターの歴史を紐解けば、小型化に向かって時が流れている事実は簡単に発見できる。
コンピューターが生まれた初期の頃、ハードウェア資源の貴重さから、それをソフトウェアでカバーすべく、いろんなプログラミングテクニックやアルゴリズムといったものが考案された。
多くのプログラマーはそんな創造的な仕事に寝食を忘れて取り組んでいた。
けれども、いまでは PC の性能が高機能になり、プログラミングテクニックを駆使しなくとも、簡単にプログラミングができるようになった。
結果的に、プログラミングという仕事は創造性が全く要求されないという認識が広まり、本格的なプログラマーという職種を目指す人が激減しているように思う。
プログラミングという仕事の楽しさは、「サイズ」が小さくて、「スピード」が速く、人々のフィーリングにあった「ユーザーインターフェース」を持つソフトウェアをエレガントに表現するところにあると僕は考えている。
ソフトウェアは小さければ小さいほど良いし、速ければ速いほど良い。ハードウェア資源がそれだけ少なくて済むからである。使い易さについても同じくである。
これは世界共通のグローバルスタンダードなコンセプトだと思う。
現状のソフトウェア業界を見ていると、そんな観点から究極の仕事を目指している企業はほんの一握りの存在でしかないと思う。
安易に妥協して目先のお金を追い求めて東奔西走しているのが現実の姿ではないだろうか。
だからこそ、ベンチャーはそんなニッチに将来に夢と希望を抱いて全てを賭けるだけのチャンスを見出せるのだ。
携帯電話がネットに接続され、インターネットの恩恵をどこにいても手軽に享受される時代となった。
この先の流れをどのように読み取るかが、IT 業界に身を置く経営者としてのセンスが試されるところだろう。
今後十数年の間に、携帯電話以外にもいろんな機器がネットに接続されてゆくと思う。
その時に、接続される機器に組み込まれるコンピューターとはどんな仕様のものとなっているだろうか?という問題意識が何よりも大切だろう。
エコロジーの時代だから、ハードウェア資源が小さくて済めば済むほど、それは世界中の人々から喜ばれるはずである。
そんな風にこの空間を眺めれば、「スピード」と「サイズ」は絶対に外せない基軸となり得る。
当然、人々のフィーリングにマッチした「ユーザーインターフェース」も欠かせない。
「スピード」、「サイズ」、「ユーザーインターフェース」という、グローバルスタンダードとも言える 3 つの座標軸から構成される空間から、その世界で No.1 を目指している企業は例外的な存在といえるかもしれない。
けれども、こんな観点からこの業界を眺めて事業を推進する姿勢に飛躍に向けたチャンスが隠されていると思う。